第65話 まがつたてつぱうだま

文字数 1,120文字

 1時間も経っていないのに、外はすっかり暗くなった。陽が落ちると一気に寒くなる。寒いと体が動きづらくなるので、ハイエースの中はガンガンの暖房だ。
「行くぞ」
 ハイエースは、ゆっくりとマンションに横付けされた。ゲノムマンションのドアが開かれる。内偵だ。
 同時に、俺たちはハイエースから降りた。見張りの1人を制圧、あっという間にマンションの管理室へと押し入る。カギは簡単に入手できた。
「よし。行くぞ」
 リーダーの指示により、メンバーはバラバラに分かれた。俺は階段で5階に上り、地図に印をつけていた部屋へと入る。
 うわ。
 扉を開けると、エクスタシーと男女の匂い。まさに退廃そのものだ。室内は、風呂トイレ別で、他に小さな3部屋しかない。一番奥がバスルームになっている。
 大きなバスルームだ。床にマットが敷いてある。男が寝転がり、女が跨って、男の体を洗っている。俳優の五島タケルと、カミだ。タケルは紙パンツ。カミは半透明のネグリジェを着ている。2人とも、セックスドラッグとして有名なMDMAでも飲んでいるのだろうか。目がイっている。
 リーダーからは「証拠を撮っておけ」と言われたので、タケルの全裸ヌルヌル映像を録画しておく。俺が侵入した証拠になると困るので、声は出さない。ただ、無言でカミを持ち上げた。
 カミは、俺の腕の中で暴れた。生きてる! 愛おしすぎる! 俺は、カミを強く抱きしめた。俺の身長で誰だか気づくようなことはない。それぐらいもう、薬でおかしくなっている。ただ、抵抗することはやめたので、抱えて逃げることは容易になった。
 ローションのせいだろう。地面がヌルヌルする。俺はバランスに気をつけながら、自分を止めようとするタケルを蹴飛ばした。着替え室にある服をカミにかぶせ、そのまま部屋を出る。
 スマートで迅速な作戦遂行速度。うまく逃げられそうだ。だが、部屋を出た狭い通路には、前後2人ずつ、棒やバットを携えた中国マフィアたちが待ち構えていた。
「やっチャイナ!」仕切っているらしい奴の声がする。女みたいに高い声。監視役のようだ。使用中の扉が勝手に開いたら、マフィアの団員たちに連絡する役目を担っていたらしい。存在に気づけなかった。だが確かに、秘密厳守で、客に逃げられても困る商売だ。いてもおかしくはなかった。
 見つかったか!
 ここは5階だ。飛び降りるわけにもいかない。マンションの下を見る。隣のビルから、マフィアが次々とやってくる。大人数。全部で20人くらいか? 2台のハイエースが、隅で待機していることは確認できた。だが、20人を潜り抜けて辿り着くことは難しい。一緒に突撃してくれた他の6人が助けに来てくれるまでは、なんとかして耐えるしかない。
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