第22話 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

文字数 1,315文字

 俺は、カミと共にトー横へと歩いていく。歩幅が違いすぎるところが可愛い。
「カミってさ、なんでヘスティアって名乗ってんの?」
「これ? 『ダンまち』の神の名前。みんな本名は言わねーよ。身バレしたらヤベーかんな。それに、普段と名前が違う方が、より日常から逃げられるじゃん? ほら、バットマンも仮面ライダーも、変身すると名前変わるだろ? パブも、私以外の人には名前を言わねーほーがいーよ」
 カミは、お口ミッフィーちゃんのポーズをとった。
 分かった。言おうとして俺は気づく。
「じゃ、もしかして、カミも本名じゃないの?」俺は知らず、悲しそうな声を出していた。カミは他人の感情に敏感だ。すぐに否定する。
「いや、そりゃ本名。だから、ぜってぇ誰にも言うなよ」照れている。可愛い。
 嬉しくなった俺はうなづき、そして尋ねた。
「でも、何で俺に本名教えてくれたの?」
 カミは「んー?」と考えた後で答えた。
「パブが先に本名を教えてくれたからかな? なんか、悪い奴じゃなくね? と思った」
 わ。眩しい。カミの笑顔は、世界一美しい。
 俺は改めて心に誓った。カミの判断が正しかったと思ってもらうようにしよう、彼女を悲しませることだけは絶対に止めよう、と
「ヘスティア」うっかり彼女の本名を言ってしまわないように、今から練習しておくことにする。けど、そうなると疑問がある。
「でも、これから行く界隈の人たちも仲間なんだよね? 仲間なら普通、本名教えてもよさそうだけど」
「まー、パブは強いから平気かもだけど。私のダチなんて、名前教えたせいで酷い目にあってたぜ。元彼がネットで調べて、家バレして、今は、毎日そいつが、そいつの友達と一緒に家に隠れているらしいよ。あっ。だからZenlyも切っときな」
「ゼンリー?」
 カミは、知らないの? という顔をした。
「ほら。この前、三種の神器交換したじゃん。あのZenly。切っとかないと、自分のいる位置がいつでもバレちゃうから。私もほら、家に帰る時と学校行ってる時はZenly切ってんぜ。でもパブ。私とのZenlyは切るなよ。なんせ、パブは私の犬なんだかんな」
 あー。だからカミは、俺が今日一日どこにいたのか知ってたのか。俺はうなづいた。まぁ、自分がどこにいるかなんてホントは知られたも問題ない。なんせ俺には、失うものが何もないのだから。
 しかし、カオスすぎる。俺は、カミとたわいもない話をしながら考えた。普通、仲間には敬意を払うものだ。相手の幸せを願うもんだ。おばあちゃんや牧師さんからそう教わってきた。だから、自分には仲間がいない。
 けどカミは、彼氏や仲間にも本名を教えてはならないと言う。それが当たり前だと言う。自衛手段がないと、何も信用してはいけないと言う。それなのに、みんなとZenlyで位置を共有しあったりしている。乱交まがいのことをして、平気な顔をしている。
「パブ。もうすぐ着く。けど、その前に誓え。私と自分の本名を他人に教えんな。それから、誘われても、ぜってぇ薬はやんな」
 自分の意志ではどうしようもなくなるようなことは絶対にやるな。そういうことだな。
「誓います」
 俺は御守りに手を当て、カミの言葉をしっかりと受け取った。
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