第52話(テトラ) 糞

文字数 1,418文字

 次の日の朝、テトラは、ハツジと共に釈放された。SNSでは一晩中、トー横の王が拐われ、どんな罰を受けているのかが注視された。リーのツイートは、バズりにバズった。インプレッションとエンゲージメントは、日本急上昇1位に躍り出た。
 2人はまた、ハイエースに乗せられ、歌舞伎町で降ろされた。
 『歌舞伎町一番街』の門をくぐる。歩行者が2人を見る。ハツジは背が高いから目立つ。それから、一緒にいるテトラの顔を見る。全身黒いので、すぐにトー横の王だと気づかれる。
 この世界では、目立てばなんでも勝利だ。悪事で有名な太った迷惑ユーチューバーは、ブサイクなのに毎晩女に貢がれ、スパチャも毎日10万円もらい、ホストをすれば週に1000万円を稼いでいる。世間の人間は、目立つだけでタレントと勘違いするのだ。テトラは、一夜にしてスターの気分だった。
 いつものトー横やシネシティ広場には、トー横キッズたちの姿はなかった。SNSでテトラが拐われたことを知り、自分たちが巻き添えを喰らいたくはなかったからだ。『新宿特区』に居場所がバレないように、テトラとZenlyで繋がっていた仲間も、全員、繋がりを絶っている。
 ただ、彼らは、ハツジも捕まっていたことは知らなかった。ハツジはホームレスに加害していなかったので、まさか拐われるとは思っていなかった。そのため、ハツジのZenlyは仲間と繋がっている。部屋番号を聞き、ハツジとテトラは、仲間のいるAPAホテルへと向かった。

 あれだけ情けなく謝罪ラップを歌ったにも関わらず、部屋に入った瞬間、仲間たちは、大声でテトラを称えた。
「ホントすいません! ホントすいません!」朝だというのに、みんなテトラのラップを覚えている。
「いい即興ラップだったよ!」
「アゲー!!」テトラを中心に輪ができる。いい気分だ。
 だが、1時間もすると、徐々に、ハツジを中心に話が出来始めた。裏社会のボスと恐れられたリーの正体。その方が、ラップよりも面白かったからだ。
 ちくしょう。テトラはトイレに篭り、スマホを取り出した。新宿卍會にメールを打つ。『おはようございます。パブの本名が分かりました。西條發二。岩手の一関出身です。情報、よろしくお願いします』
「朝練行かなきゃ」テトラがトイレに入っている間に、ハツジは部屋から出ていった。
 みんなは次々と、朝の合法大麻を吸い始めた。HHCとCBNとCBGの混合リキッドだ。アントラージュ効果で、陶酔作用が強くなる。HHCの規制が始まる前に、在庫を処分しようという名目だ。本当はすぐに吸いたかったのだが、大麻を嫌うハツジがいたので吸えなかった。
 テトラは、混合リキッドを過剰摂取した。俺は無敵だ。他の奴と話している少女の1人に、後ろから覆い被さる。少女は一瞬驚いたが、すぐに理解した。芸能人に抱かれているかのように嬉しそうな顔。パンツを下ろされながら、テトラのやった謝罪ラップを繰り返す。
 腹が立つ。テトラは、少女の口を押さえ、自分の性器にリキッドを塗り、そのまま、少女のアナルに挿入した。
「いたーい」
 無視。腰を振り続ける。部屋の中はすぐに、子犬のフンのような臭い匂いが充満する。
「くせー」
「しょーがねーだろー。ケツなんだから」
「どーせ後で、従業員が掃除すんよ」
「くせー匂い嗅いでると、俺もやりたくなってきたな」
「ホントすいません! ホントすいません!」
 キッズたちはいつも通り、思い思いに欲望を吐露しあった。

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