第38話 MMAルール
文字数 1,432文字
「さあ。いよいよヘビー級の試合です! 黒い狂犬、ブランカー!!」
リングネームはカミが、「私の犬だからカミの犬ね」と言って名付けてくれた。厨二病ぽいが、カミの飼い犬なので仕方がない。
四方を酔いどれに囲まれる中、俺は、リングのロープを跨いだ。すでに相撲取りはリングインしている。
「パブー」トー横キッズの声は大きいが、鍛えていないので、か細い。
「アキオー!」「殺せー!」という、半グレたちの声にかき消された。
喧嘩とは違うので緊張する。
だが、俺は、こういう相手に対しては、体に触れさせもせず、圧勝してきた。先週だって、200kgの黒人を瞬殺した。つまり、触らせなければ喧嘩もMMAも同じだ。 しかも一回戦。さすがに落とさないだろう。その自信はある。
ただ、グローブをつけたのは初めてだ。安全靴も履いてない。しっかりと一撃で倒せるかどうか。それだけは気になる。
「ファイト!」ゴングが鳴った。
リング中央へと進む。
始まってすぐだ。俺は、ルールにがんじがらめになっていることに気がついた。路上の喧嘩とは全く勝手が違う。MMAは何でもあり、では全くない。
まず、金的と目潰しは禁止。髪も掴めない。関節蹴りも禁止。背中や後頭部を殴るのも禁止。倒れてからのサッカーボールキックも禁止。
禁止。禁止。禁止だらけだ。
普段は、相手の関節を破壊した後のハイキックや膝蹴りを得意技にしている。だが、リングの中では何もできない。2発相手を殴ってみて、少しも弱点を狙えないことに気がついた。
審判や照明も邪魔だ。集中できない。リングも狭い。
追い詰められている感覚もないのに、いつの間にかコーナーが背中に当たる。
こちらの打撃は無視され、あっという間に掴まれ、倒される。
にゃろ。だが、頭突きは禁止だ。アキオの金玉を触っているのに、潰してはいけない。
逃れるために、猫じゃらしのように動いたり、エビのように跳ねたりする。あっという間に体力を奪われる。
これはヤバい。必死にアキオの体にしがみつき、攻撃をさせる隙間を無くす。押されているとはいえ、アキオも素人だ。倒したところで、攻撃する手立てはない。
結局、お互いが何もできずにブレイク。立ち上がる。
「ファイト!」
試合が再開される。
だが、何度やっても、アキオには突進以外の技がない。俺には避ける術がない。
抱きつかれて倒される。あとは、審判が「ブレイク」というまでは、ずっとくっついているだけの展開になった。
突進される時、俺のパンチもたまには入る。だが、急所を打ってはいけないので、一発入ったぐらいでは倒れてくれない。間合いを外そうにも、リングが狭くて避けられない。こうなると、たった10kgの体重差が厄介だ。
こうして俺の初戦は、前までの3試合と同じく、3分3ラウンド、塩漬けにされて終わ理を迎えた。華々しいデビューを飾ろうと思っていたのに、俺の試合は、単なる素人の敗戦の一つとして、誰の記憶にも残らず終わった。
応援しているトー横キッズたちは、俺が活躍できなかったせいで、半グレに脅され、馬鹿にされている。こういう時、声が小さい方は不利だ。仲間は、二度と来たくないという顔で、追い出されるようにして会場を後にしていた。
テトラ……。ここでは、トー横の王の威光も通じない。どこかの酔いどれにですら、ただ、線が細いだけの全身黒服の男、としてしか扱われていない。
控え室へと帰る途中、セコンドについてくれていたカミは、涙を流していた。
リングネームはカミが、「私の犬だからカミの犬ね」と言って名付けてくれた。厨二病ぽいが、カミの飼い犬なので仕方がない。
四方を酔いどれに囲まれる中、俺は、リングのロープを跨いだ。すでに相撲取りはリングインしている。
「パブー」トー横キッズの声は大きいが、鍛えていないので、か細い。
「アキオー!」「殺せー!」という、半グレたちの声にかき消された。
喧嘩とは違うので緊張する。
だが、俺は、こういう相手に対しては、体に触れさせもせず、圧勝してきた。先週だって、200kgの黒人を瞬殺した。つまり、触らせなければ喧嘩もMMAも同じだ。 しかも一回戦。さすがに落とさないだろう。その自信はある。
ただ、グローブをつけたのは初めてだ。安全靴も履いてない。しっかりと一撃で倒せるかどうか。それだけは気になる。
「ファイト!」ゴングが鳴った。
リング中央へと進む。
始まってすぐだ。俺は、ルールにがんじがらめになっていることに気がついた。路上の喧嘩とは全く勝手が違う。MMAは何でもあり、では全くない。
まず、金的と目潰しは禁止。髪も掴めない。関節蹴りも禁止。背中や後頭部を殴るのも禁止。倒れてからのサッカーボールキックも禁止。
禁止。禁止。禁止だらけだ。
普段は、相手の関節を破壊した後のハイキックや膝蹴りを得意技にしている。だが、リングの中では何もできない。2発相手を殴ってみて、少しも弱点を狙えないことに気がついた。
審判や照明も邪魔だ。集中できない。リングも狭い。
追い詰められている感覚もないのに、いつの間にかコーナーが背中に当たる。
こちらの打撃は無視され、あっという間に掴まれ、倒される。
にゃろ。だが、頭突きは禁止だ。アキオの金玉を触っているのに、潰してはいけない。
逃れるために、猫じゃらしのように動いたり、エビのように跳ねたりする。あっという間に体力を奪われる。
これはヤバい。必死にアキオの体にしがみつき、攻撃をさせる隙間を無くす。押されているとはいえ、アキオも素人だ。倒したところで、攻撃する手立てはない。
結局、お互いが何もできずにブレイク。立ち上がる。
「ファイト!」
試合が再開される。
だが、何度やっても、アキオには突進以外の技がない。俺には避ける術がない。
抱きつかれて倒される。あとは、審判が「ブレイク」というまでは、ずっとくっついているだけの展開になった。
突進される時、俺のパンチもたまには入る。だが、急所を打ってはいけないので、一発入ったぐらいでは倒れてくれない。間合いを外そうにも、リングが狭くて避けられない。こうなると、たった10kgの体重差が厄介だ。
こうして俺の初戦は、前までの3試合と同じく、3分3ラウンド、塩漬けにされて終わ理を迎えた。華々しいデビューを飾ろうと思っていたのに、俺の試合は、単なる素人の敗戦の一つとして、誰の記憶にも残らず終わった。
応援しているトー横キッズたちは、俺が活躍できなかったせいで、半グレに脅され、馬鹿にされている。こういう時、声が小さい方は不利だ。仲間は、二度と来たくないという顔で、追い出されるようにして会場を後にしていた。
テトラ……。ここでは、トー横の王の威光も通じない。どこかの酔いどれにですら、ただ、線が細いだけの全身黒服の男、としてしか扱われていない。
控え室へと帰る途中、セコンドについてくれていたカミは、涙を流していた。