第57話 ポンジスキーム(1)

文字数 1,093文字

 テトラにはしっかりと話を通した。トー横仲間からも、気持ちよく送り出してもらえた。あとは、新宿卍會に筋を立てるだけだ。
 俺は、シネシティ広場のゴミ拾いと炊き出しに来ていたハリスに頼み、レイノにも連絡をとってもらった。
 次の日の夜、俺は、レイノに会った。用心棒を辞めるためだ。思えば、この仕事のおかげで安定した生活を送ることができた。世間では悪いとか、胡散がられたりもするかもしれない。だが、自分にとっては、感謝してもしきれない。
 いつも通りにベンツが止まり、後部座席が開く。中に入るとレイノがいる。以前よりもさらにゴツくなったようだ。挨拶ですら緊張する。レイノはにこやかに、俺と握手を交わした。
 ベンツが動き出す。
「久しぶりだな。テトラから聞いたぞ。お前、いよいよ、本格的に格闘家を目指すんだって? 頑張れよ。俺らはいつまでもここにいる。何かあったら、いつでも相談せえ」
「ありがとうございます」何も言わなくても全てを知ってくれているようだ。俺は、深々と頭を下げた。
「そういえば發二。卒業を前に、お前に一つ、情報を教えてやろう」
 えっ? 俺の名前。なぜ知ってるんだ? 俺は嫌な予感がした。
「お前のお母さんな。どこにいるか分かったぞ」
「えっ!」まさか、ずっと連絡のない母の行方が、今になって分かるだなんて。
 しかし……。俺は迷った。今になって母の行方を知ったところで、ただ、自分の夢に対するノイズになってしまうのではないかと。だが同時に、こんなに立派に成長した俺を見て、今度こそ母が愛してくれるかもしれない。
 仲間とも違う。カミとも違う。ジム仲間とも違う。母には、母にしかくれることができない愛情がある。俺は自分の中で、まだ母の愛を渇望していることに気がついた。
 聞きたいようでもある。聞きたくないようでもある。けれども、ここに俺の意思は関係なかった。躊躇う間も無く、レイノは、親切心だという顔をしながら続ける。
「お前の母さんな、中国系マフィアと手を組んで、ポンジスキームをおこなっているぞ」
「ポンジスキーム?」
「そう。簡単にいうと、金融詐欺だな」レイノは、タバコに火をつけた。車内が一気に煙に包まれる。
「なんでそんなことを?」
「言いづらいけどな、お前の母さん、中国系マフィアに色恋されてんぞ。ポンジスキームは、自転車操業式の詐欺だ。いずれは相手にバレ、お前の母さんが全責任を取る羽目になる。ま、俺の意見だと、お前を捨てるような親はほっとけ。そう言いたい。だが、これはお前の問題だ。一応、マフィアの事務所についての情報は教えよう」
 レイノは、動けない俺の胸ポケットに、1枚の紙を差し込んだ。
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