第11話 トー横の王

文字数 1,549文字

 こいつも仲間か? 俺は男を睨んだ。背は180cmくらい。大学生だろうか。線は細い。髪の色が、半分だけ金色に染まっている。後は他の二人とも同じように、全身黒一色のコーディネートだ。オシャレだが、強さでいったら俺の敵ではない。
 俺は、グッタリとした男から手を離し、新しく来た男へと向かっていった。
「やめて、パブ!」
 目が覚めた。もちろんだ。カミの言うことなら止める。俺の興奮で満ちていた頭に、良心が覆いかぶさった。
 カミは布団を体に巻きつけ、ベッドから降り、男の元まで走っていった。
「テトラ!」
「挨拶は?」
 カミはテトラにしがみつき、何度も何度も、頬にキスをした。
 何が起きているのだろう? こいつはカミの彼氏? カミは、俺と付き合ってるんじゃないのか? よく分からない。嗚呼。都会とは? 大人とは? 常識が分からなさすぎる。俺は混乱し、呆然とした。
 3人の男がうめいている。こいつらは一体? 男の仲間か? カミの仲間か? いや。仲間なら嫌がることをしないだろう。じゃあ、デブが彼氏? 事実は何なんだ?
 テトラと呼ばれた男は、自然にカミを抱きしめている。とりあえず俺は、テトラを睨んだ。
「おっと。争う気はないよ」テトラは部屋の様子を見た後、両手を挙げておどけてみせた。全面降伏。子犬が腹を見せているかのように、少しも俺に対して敵意を抱いていない。
 敵ではないのか? 嫉妬の炎は、本能寺の変のように激しく燃え盛っている。だが、カミの目を見ると、敵ではないと言っている。なら仕方ない。
 ただ、感情のバランスがうまく取れない。俺は、まるで石になったかのように固まった。
 テトラは部屋の中へと入ってきた。俺とは目を合わせない。袋を放り投げ、ベッドに腰を下ろす。堂々としたふりをしているが、怖がっているのは明らかだ。足が震えている。
 殴りたい。だが、カミが間にいる。テトラもそのことが分かっているかのように、カミをいつも、人質のようにして俺との間に立てた。
「やあ。初めましてだね。俺は西園テトラ。トー横の王と呼ばれている。お前、名前は?」
 トー横? 王? 王にしては弱そうだ。だが、自ら座るなんていう不利な体勢に移動した。よほど自分に自信があるのか? それにしては足だけじゃない。声も震えている。俺は、この理不尽な存在を睨みつけた。
「パブっていうの」カミが、急いで口を出す。
「ヘスティアは黙ってろ。俺は、こいつに聞きてぇんだ」
「まじムカつく」カミが怒っている。
 こいつもやって良いか? 俺は、テトラを殴りたくて仕方がない。カミからの免罪符さえもらえれば、そのまま、右拳を打ち付ける準備はできている。
「おいおい。んな顔すんじゃねー。マジさがるぜ」テトラは両手を突き出した。やはり震えている。絶対に強くはない。なのに、口だけは一丁前だ。
「パブ。お前がこいつらをやったのか? ケンカ強ぇな。どうだ? 俺らの仲間になんねーか? トー横の流儀、教えてやんよ」
 仲間への誘い? こんな状況は初めてだ。誘われるのは、どんな状況でも嬉しい。カミを見ると、うなづいている。じゃあ、いい。どうせ俺には、他に頼るところもない。
「ヘスティアをいじめないのなら」一応条件は出した。カミにかっこいいところを見せたいからだ。
 テトラはうなづき、倒れている3人を見まわした。自分の両膝をたたく。
「よし! 今回のことは、こいつらが悪ぃ。これでおしまいだ。ヘスティアとパブをいじめる奴は、俺が許さない」テトラは言って、右手を突き出した。随分と調子がいい奴だ。信用できない。俺はカミを見た。だが、カミは、ワクワクしながら、こちらを見つめ返してくる。
 そっか。カミに見つめられたら仕方ない。俺はカミの要望に応えるべく、テトラとガッチリ握手を交わした。
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