第66話 Ora Orade Shitori egumo

文字数 1,157文字

 俺はとりあえず、目の前にいるマフィアを蹴り飛ばした。何人もが同時にかかって来られるほど広くはない。襲ってくるのは前後2人だけ。けれども、それは同時に、自分も、全員を倒さなければ前には進めない。時間がかかる。
 また、ゲームではないので、相手を倒しても、消去することはできない。さすがに相手を殺すわけにはいかない。殺せない分、怪我させたとしても、相手は、ただただ増え続けていく。倒しても地面にマフィアが溜まる。まさにジリ貧だ。
 仲間はいつ助けに来るんだ? 俺は、焦りに耐えながら戦った。俺は体が大きく、力も強い。戦闘技術も高い。自分1人なら、このくらいの人数が相手でも、突っ切って逃げることができる。ただ、カミを抱えているのだ。カミがまともだったらまだいいが、すでにガンギマっているので、歩くこともできない。40kgの彼女を抱えながら戦うには無理がある。
 ちくしょう。
 とはいえ頭の中には、カミを置いて逃げようという選択肢はない。
 階段まではたどり着いた。下から来る敵は、蹴飛ばせばドミノ倒しのようにしていけるはずだ。望みが出てきた。
 その時、階下で、エンジンを蒸す音がした。
 えっ? 下を見ると、ハイエースが急発進している。いつの間にか、ボタ雪が降り始めている。空回りしたタイヤの音だ。そのままエンジン音を響かせ、1台目のハイエースは消えていった。
 一緒に突入した仲間たちは、隣のビルから金庫を運び出し、後方のハイエースに乗せている。そして、2台目のハイエースも、走り去っていってしまった。
 カミを救出したらハイエースが動き出す。そういう手筈だった。逃走用の車がないならお手上げだ。階下に降りられても逃げ切る手段がない。
 俺が巨漢の格闘家とはいえ、武器を持った20人を相手に戦うことは無謀に等しい。それでもカミだけは絶対に救う。鉄の棒で何度も殴られながら、俺は必死で、襲い来る敵を打ち倒していった。
 もう、相手の生死も分からない。ただ、ここから逃げ切るんだ。この気迫に敵は怯む。階段に隙間ができる。6人ほど蹴り落とす。
 いける!
 思った瞬間、カミの体が激しく跳ねた。
 カミ!
 俺の集中が切れた。瞬間、鉄バットや木刀を持った集団にタコ殴りにあう。ヤバい。集中しなければ。スイッチを入れ直す瞬間のタイミングで、遠くの監視役と目が合う。
 女だ。張り付いたような笑顔。彼女は、サイレンサー付きの拳銃を構えている。そして、抱えているカミから、ヌルッとした温かい液体が滲み始めている。カミの体が跳ねた原因が理解できた。
 女は、なおも銃を撃ってきた。サイレンサーがついているので避けづらい。幸い、銃弾は小さそうだ。俺は、体で弾を受け止めた。1発、2発……。弾が切れるまで撃ち続けさせる。当たったのは1発だけ。しかも肩口。軽傷だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み