第58話 ポンジスキーム(2)

文字数 1,044文字

 まーじかよ……。
 レイノは、たくさんのことを教えてくれた。ポンジスキームとは、使用者からお金を預かって、毎月1割ずつ増やして返す投資信託だ。最初は必ず増えるので、出資者はどんどんお金を預ける。また、誰かに紹介すると、その分配当が増えていく。
 だが実際は、投資をしていない。ただ、新しく紹介されちた人たちから得たお金を見せ金にして、1割増えたと勘違いさせるだけだ。増えているわけではないので、いずれは破綻する。その前に海外に高飛びしてしまえば、お金を返さずに済む。そんな詐欺のやり方だ。そういえば母は、昔から、人を騙すことに長けていた。
 レイノは、たまたまハツジの本名を知り、敵対する中国系マフィアの情報を探っている時に、その情報を手に入れたそうだ。
「俺は詐欺が許せない。証拠を揃えて、来月には警察に依頼し、奴らの事務所を摘発してもらう。その前に、まあ、どうするか……。後は好きにしろ」
 俺は降ろされた。レイノのベンツが去っていく。新宿卍會のメンバーは、シネシティ広場のゴミを片付けている。誰も自分のことを知らないのだろう。俺は、彼らに片付けられることもなく、ただ、立ち尽くして考えていた。世間はあいかわらず騒がしく、あいかわらず他人に無関心だ。
 今までだったら、こういう重大事件の時には、いつも必ず、カミが降臨してきた。俺は1人で花園神社の石段に座り、頭を抱えた。彼女に会いたい。だが、彼女は現在、アイドルになるために頑張っている。会いに行きたいとも思ったが、俺の体は大き過ぎて悪目立ちする。男と会うことは、アイドル業界のタブーだ。決して邪魔してはならない。
 それに、反社についての相談なんてもってのほかだ。もし、カミが俺の現状を知ってしまったら、きっと彼女は、俺を助けようとしてしまう。それだけは避けなければいけない。絶対、彼女を巻き込んではならない。1人で考えるんだ。
 だが、俺は元々、そんなに頭がいい方ではない。普段の生活を崩さないようにはしていたが、精神は、あっという間にボロボロになっていく。自分が知る前からきっと、母は悪事に手を染めていたのだろう。悪人に騙されていたのだろう。以前と今の違いは、知っているか知っていないか、それだけだ。シュレディンガーの猫じゃあるまいし、レイノから情報を聞いた瞬間に、現実が変化した訳ではない。
 母を助けに行くか、自分の夢を追い続けるか。俺は、停滞しているこの状態が気持ち悪かった。1日過ごしても退化している自分を、吐きそうなほどに軽蔑した。
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