第67話 あめゆじゅとてちてけんじゃ

文字数 841文字

 弾が切れると、女は再び、銃に弾を込め始めた。まだ、予備弾はいくつも持っていそうだ。あいつを先に潰さなければ、ただひたすら、こちらは防御に徹さなければならない。タイミングを逃してはならない。
 俺は、足を掴んでいる男を踏み潰し、目の前の男を突き飛ばし、監視役の女の動きを止めにいった。
 あっ!
 俺は、不思議な感情に包まれた。近づいてみて分かった。暗がりで見えなかったが、その女の目は、自分にそっくりだった。母だ。
 マジか?
 母は、俺に気づかない。まだ銃を向けてくる。そして、躊躇うことなく発砲。俺は自分の母の手を思い切り叩いた。銃が転がる。武器を無くした母は怯えてしゃがんだ。遺伝子は恐ろしい。まるで、子供時代の自分を見ているようだ。
 なんだ? なんなんだこれは。俺は何をしたんだ? 何が悪かったんだ? そして、カミが何をしたというのだ? 母は、なぜ、こんな状態なのだ? 神は、これほど信仰している神は、一体何をしているのだ? こんなにも夢を持たせて、一気に悪夢へと俺を引き摺り込む。
 『俺ゲー』とは一体、どれほどまでにクソゲーなのだ? 俺の世界をハッピーエンドに導く方法? そんな攻略法、そもそもあったのか? 俺は足掻いたよ。カミだって頑張った。その結果がこれか。神よ。教えてくれ。神よ。俺たちを救ってくれ。
「うおおおおおおおおおお!!!!!!!」俺は、カミと御守りを握りしめながら、祈りの咆哮を上げた。隣のビルから応援に駆けつけたマフィアたちは、何人もが拳銃を持っている。
 タン。タタン。タタタン。タタタン。
 サイレンサー付きの拳銃の撃鉄が、くぐもった音で、何度も何度も讃美歌を歌った。
 マンションの下に、1台のハイエースが止まる。車中から、『新宿特区』のデッド・リーたちが降りてきた。この讃美歌を聞きつけ、急いでマンションへと入ってくる。
「遅かったか。待ってろよ、發二。今行く」
 だが、リーの救いの声は、ハツジには聞こえていなかった。ハツジはただ、銃弾の雨と煙幕に包まれていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み