第37話 リング

文字数 1,199文字

 地下格闘は、シネシティ広場の隣にある『Bar &Fight』というコンセプトバーで、2週間に一度、開催されている。
 出場者のほとんどは、ホスト、半グレ、反社だ。トー横キッズは自撮り界隈として集まっているので、体の線が細い男女が多い。未成年も多い。そのため、すぐ隣でおこなわれていたというのに、一切、この文化が耳に入ってこなかった。
 地下闘技場。こんな場所は、日本全体でも少ない。ゆえに、全国から血の気の多い喧嘩自慢が集まってくる。
 俺は、そこそこには強いはずだ。だが、ケンジとかいう背の低い元格闘家に、簡単にあしらわれた。どのくらい強いかまでは分かっていない。ただ、倒した相手を見下す時、なんともいえぬ愉悦に浸れる。それだけは確かだった。
 母のツレたちのように、力自慢なんて碌な奴がいない。そいつらを片っ端からぶっ飛ばしながら、格闘家としての力を測るのだ。
 地下闘技場のシステムは、体重別に、60kg以下、70kg以下、80kg以下、100kg以下、100kg以上の5階級に分けられている。初めて出場する選手は、1枚1000円の入場チケットが10枚もらえる。ファイトマネー代わりだ。以降、1回勝つごとに1万円。9回勝つと、9万円と王者挑戦権。チャンピオンになると、毎試合10万円がもらえる。負けると1万円ずつ下がっていく。
 もちろん、プロの試合よりはつまらない試合も多い。だが、ここが盛り上がるのには理由がある。ひっそりとだが、賭けもおこなわれているのだ。
 とはいえ、日本で賭け事は禁止なので、パチンコの特殊景品のように、指定された質屋で現金と交換するシステムになっている。その質屋は、出張買取として、毎回試合に来ている。つまり、その場での、スマホを利用しての引き換えもできるようになっている。
 俺は、呼びたい友だちがいるわけではなかった。だが、ただでチケットをあげると言ったら、みんなが来たいと言ってくれた。カミもセコンドをしてくれる。
 最初は無料のファイトマネーだが、勝てば金がもらえる。勝ち続ければスカウトだってくる。ここが夢の始まりだ。
 来年あたりは、RIZINに出られるかもしれない。そこでも倒しに倒せば、3年後の20歳にはUFCからのオファーが来るかもしれない。今回は、その第一歩だ。
 地下闘技場だけあって、対戦相手は当日まで分からなかった。貰った対戦相手の情報が書かれた紙を見る。俺の相手は、元相撲取りだ。180cm98kgの体格は、街で歩いていたら明らかに威圧感を持つ。
 一方、俺は、193cm88kgだ。体重こそ少ないが、圧倒的に高い身長とリーチを持つ。計量の時に豚野郎は俺を睨んできたが、ジョーンを倒している俺だ。全く恐怖を感じなかった。
 初試合だが、100kg以下級なので出番は遅い。4番目だ。前の3試合は、しょっぱい試合だった。俺が盛り上げてやらなければならない。
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