第47話 新宿特区

文字数 1,707文字

 コーメーたちは、自分たちのTikTokがバズったことに気を良くした。どんな理由にせよ、目立てばまた、養分になる女たちが寄ってくる。
 だが、この動画が良くなかった。アウトロー集団として有名な『新宿特区』のボス、デッド・リーにも見つかったのだ。
 デッド・リーは、賭け事の予想屋として有名になった男だ。以降、捨て猫を集めてカフェを開いたり、ホームレスのために炊き出しをしたりしている。他国で戦争があれば募金をし、法律で裁けない悪があれば突撃する。いわゆる、現代のダークヒーローだ。ネット内では、弱者の駆け込み寺となっていた。
 デッド・リー率いる『新宿特区』は、代々木公園での炊き出しをボランティアでおこなっていた。そのため、動画に映っていたホームレスとは顔見知りだった。
 リーはTwitterで発言した。「この爺さん。いつも明るくていい奴なのにな。小僧。反省するまで許さねぇ。首を洗って待っとけよ」と。
 WANTED。つまり、テトラを賞金首にしたのだ。正義好きのネット野次馬たちは、こぞってリーに目撃情報を送った。たちまち、テトラたちは特定された。

 次の日の夜だ。テトラの横に、突然、ハイエースが2台止まる。中からは、5人のアウトローが降りてきた。金属バットなどを持っていて、いかにもヤバそうだ。
 テトラはファンから、「リーに狙われている」ということを聞いていた。そのため、用心棒として、ハツジやポパイやヤスを連れていた。だが相手は、大人のアウトロー組織。本気でテトラを攫いにきている。危険だ。
 ヤスは、叫びながら逃げ出したところを捕まった。ポパイは、後ろから3人がかりで倒され、ナイフで頬をヒタヒタとされている。テトラは、抵抗せずに捕まった。
 ハツジは、他の2人のようには逃げない。だが、『新宿特区』に逆らう気もない。なぜなら、テトラたちが悪いと思っているからだ。それ相応の罰を受ければいい。反省して、謝罪だってするべきだ。
 ただ、『新宿特区』がどのくらいヤバい組織だかが分からない。テトラたちは仲間だ。殺されるかもしれないのなら、黙って見ているわけにはいかない。逆らうつもりはないが、もし仲間の命に危険があるのなら、その時は、戦わなければならない。そう思っていた。
「逆らわねーし、逃げねーんだな、お前は。デカいから、自分は強いとでも思っているのか?」長い木刀を持った男が、俺に言う。このアウトロー集団のリーダーのようだ。オールバックで背が高く、顔も手足も細長い。派手な柄シャツを羽織っている。
 俺は答えた。
「あの動画の件ですよね。明らかに俺たちが悪いので、貴方たちの言う通りにします。けど、もし仲間を殺そうとするなら、その時には戦います」
 ずっとMMAの練習をしてきたのだ。誰に対しても負ける気がしない。自由に動けるのなら、今来た7人程度は瞬殺できる。20代と30代の体の大きな男たちだが、本当に強そうなのは2人だけだ。
「そうか。お前、ボスが気に入りそうだな。分かった。トラ。お前が、こいつの横につけ」先ほどポパイを引き倒した、一番体の大きな男が近づいてくる。185cm120kgはあるだろうか。キャップを被り、無精髭を生やし、どことなく愛嬌のある男だ。
「お前、名前は?」
「パブ」
「ああ」男は、スマホを見て確認している。俺たちの名前が書かれているようだ。
「パブか。お前は加害してないみたいだな。俺は虎丸。あの人は、兄貴分の九頭竜さんだ。お前が何もしなければ、こっちからは何もしない」
「仲間も大事なんだ。怪我をさせないように頼みます」
「それはボス次第だな。俺たちは、ボスの手足だ。ただ、連れてこいと言われたから連れていく。戦えと言われたら戦う。だから、話があるなら直接ボスに言いな」
「分かりました。そうさせてもらいます」
 7人のアウトローと4人のトー横キッズは、2台の黒塗りハイエースに分乗して、東京の街を20分ほど走っていった。このカーテンの張られたハイエースの中に、拉致られた人間がいるとは、周りの車に乗っている人間は露ほども思っていないだろう。表面には常に裏側がある。だが、普通の人間がそれに気づくことはない。
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