第28話 用心棒
文字数 2,056文字
「それじゃあ、仕事のやり方を教える。これを持て」ハツジは、レイノからスマホを渡された。
「ホテヘル、って知ってるか?」神妙な顔だ。俺は首を振った。
「女の子がお客さんと、ホテルでデートをする仕事だ。だが、1対1でホテルに入るので、女の子が危険な目に遭うこともある。そんな時に助けるのが君の役目だ。1回につき1000円の手当を出そう。1日10人につけば、1万円入る」
「それは、違法ではないんですか?」昨日、児ポという犯罪をしてしまったのだ。しかも、ハリスもレイノも、どこか黒い雰囲気を纏っている。今回は慎重にいく。
レイノは、心外だなという顔になった。
「違法ではない。俺はNPO以外に、お寺の住職と風俗店をいくつか運営している。その金で、君たちを助けているんだ。俺も昔は悪かった。だが、そんな時に、誰も助けてはくれなかった。俺だけは、君たちの味方になりたいと思ってんだ。それをな」
やけに自分自慢をする。だが、悪い人ではなさそうだ。
「すいません」俺が謝ると、レイノはコロリと態度を変えた。
「いいんだ。じゃあ、早速、仕事をやってもらおうか」
「お願いします」
レイノはどこかに電話をし、また自慢話と、どれだけ自分が味方なのかということを熱弁した。
数分後、車の窓が叩かれる。扉を開けると、スーツ姿の男が立っていた。細身だが、ジムで鍛えているかのようにスラリとした体格をしている。178cm73kgといったところか? 金髪でピアスをつけ、ホスト丸出しという感じだ。年齢は20代後半だろうか。
「こいつに仕事を教えてやってくれ。パブ。降りろ。給料は取っ払いで払ってやる。安心しろ。美獣。頼んだぞ」
レイノは、ビジュウと呼ばれた男に俺を託した。ベンツは、テールライトを光らせて消えていく。場所は、先ほどとあまり変わっていない。ホテル街だ。ビジュウは、俺の体を触りながらうなづく。
「おう。おう。なるほど。これはなかなかいい人材だな。喧嘩はしたことあるか?」
「昨日しました」
ビジュウは驚いた後で笑った。
「よし。強いのはいい。だがな、俺たちはヤクザじゃない。あくまで女性の護衛という仕事だ。相手を怪我させることが目的ではない。完全に相手が悪いという証拠を得てから、俺たちに連絡しろ。それから、必要だと分かった時に、初めて加害するんだ。暴力は最終手段だ。それだけは守れ。出ないと、すぐに監獄行きになる。いいか。俺たちは、弱い女性を守る正義の味方だ。守るためには、絶対に負けるな。せめて、女性だけは逃せ。それだけは忘れんな」
「分かりました」これは紳士の仕事のようだ。だったら俺は、とことんやる気になる。10分ほどの講習の後、ビジュウは早速、俺に女性をあてがってくれた。
「彼女を守れ。それから、アテンドする際は、彼女たちと余計なことを話すな。プライバシーは、お互い知らない方が仕事になる」
「分かりました」
俺はうなづき、言われるがままに彼女の後についていった。若い。自分と同じくらいに見える。でも、さすがにカミよりは大人だ。合法的な仕事だと言っていたので、18歳以上なのだろう。童顔だが、服はセクシーだ。
彼女は、50代のハゲたおじさんに近づき、話をしている。そのまま、近くのホテルに入った。俺は看板を見た。2時間3千円と書いてある。ただ建っているだけのボロい建築物だというのに、俺の時給よりも高い。
すぐに電話が来た。
「奈緒です。今から60分で始めます」
「分かりました」
教えられた通り、スマホのストップウォッチ機能を使用する。目まぐるしい速さで数字がカウントされていく。この1時間、3600秒は、ホテルの前にいなければいけない。だが、いれば何をしていてもいい。自由な時間だ。とはいえ、集中してしまうと電話に気づかない可能性もある。ゲームはできない。
俺は、Zenlyを開いてみた。登録した人たちの居場所が分かるアプリだ。地図上に、交換した仲間たちの居場所が書かれている。ポパイたちは5人で、また、例のAPAホテルに泊まっている。テトラは、飲み屋街の一角で止まっている。確か知り合いの経営しているバーがあると言っていた。カミはまだ、シネシティ広場で走り回っているようだ。GPSのマークが、微妙に揺れ動いている。
俺は、ただのマークが、カミの鼓動のように思えた。愛おしくて仕方がない。早く会いたい。ただ、ひたすら、マークを目で追いかける。
ブルルルル。スマホに電話が来る。あっ。我に返る。急いで出る。
「終わりました」
「分かりました」
もう1時間が経っていた。俺は、ホテルの外で待つ。5分後、ナオだけが出てくる。
「お疲れ様でした」
労いの言葉をかけると、ナオは俺に、1000円札を手渡した。その後、どこかに電話をかける。彼女は人気者のようだ。その場ですぐに、次の仕事が入る。俺についてくるように指示し、また同じように、ホテルの前で彼女を待った。
こうして、この日は2000円を稼ぐことができた。それは、俺が初めて、自力で手に入れたお金だった。
「ホテヘル、って知ってるか?」神妙な顔だ。俺は首を振った。
「女の子がお客さんと、ホテルでデートをする仕事だ。だが、1対1でホテルに入るので、女の子が危険な目に遭うこともある。そんな時に助けるのが君の役目だ。1回につき1000円の手当を出そう。1日10人につけば、1万円入る」
「それは、違法ではないんですか?」昨日、児ポという犯罪をしてしまったのだ。しかも、ハリスもレイノも、どこか黒い雰囲気を纏っている。今回は慎重にいく。
レイノは、心外だなという顔になった。
「違法ではない。俺はNPO以外に、お寺の住職と風俗店をいくつか運営している。その金で、君たちを助けているんだ。俺も昔は悪かった。だが、そんな時に、誰も助けてはくれなかった。俺だけは、君たちの味方になりたいと思ってんだ。それをな」
やけに自分自慢をする。だが、悪い人ではなさそうだ。
「すいません」俺が謝ると、レイノはコロリと態度を変えた。
「いいんだ。じゃあ、早速、仕事をやってもらおうか」
「お願いします」
レイノはどこかに電話をし、また自慢話と、どれだけ自分が味方なのかということを熱弁した。
数分後、車の窓が叩かれる。扉を開けると、スーツ姿の男が立っていた。細身だが、ジムで鍛えているかのようにスラリとした体格をしている。178cm73kgといったところか? 金髪でピアスをつけ、ホスト丸出しという感じだ。年齢は20代後半だろうか。
「こいつに仕事を教えてやってくれ。パブ。降りろ。給料は取っ払いで払ってやる。安心しろ。美獣。頼んだぞ」
レイノは、ビジュウと呼ばれた男に俺を託した。ベンツは、テールライトを光らせて消えていく。場所は、先ほどとあまり変わっていない。ホテル街だ。ビジュウは、俺の体を触りながらうなづく。
「おう。おう。なるほど。これはなかなかいい人材だな。喧嘩はしたことあるか?」
「昨日しました」
ビジュウは驚いた後で笑った。
「よし。強いのはいい。だがな、俺たちはヤクザじゃない。あくまで女性の護衛という仕事だ。相手を怪我させることが目的ではない。完全に相手が悪いという証拠を得てから、俺たちに連絡しろ。それから、必要だと分かった時に、初めて加害するんだ。暴力は最終手段だ。それだけは守れ。出ないと、すぐに監獄行きになる。いいか。俺たちは、弱い女性を守る正義の味方だ。守るためには、絶対に負けるな。せめて、女性だけは逃せ。それだけは忘れんな」
「分かりました」これは紳士の仕事のようだ。だったら俺は、とことんやる気になる。10分ほどの講習の後、ビジュウは早速、俺に女性をあてがってくれた。
「彼女を守れ。それから、アテンドする際は、彼女たちと余計なことを話すな。プライバシーは、お互い知らない方が仕事になる」
「分かりました」
俺はうなづき、言われるがままに彼女の後についていった。若い。自分と同じくらいに見える。でも、さすがにカミよりは大人だ。合法的な仕事だと言っていたので、18歳以上なのだろう。童顔だが、服はセクシーだ。
彼女は、50代のハゲたおじさんに近づき、話をしている。そのまま、近くのホテルに入った。俺は看板を見た。2時間3千円と書いてある。ただ建っているだけのボロい建築物だというのに、俺の時給よりも高い。
すぐに電話が来た。
「奈緒です。今から60分で始めます」
「分かりました」
教えられた通り、スマホのストップウォッチ機能を使用する。目まぐるしい速さで数字がカウントされていく。この1時間、3600秒は、ホテルの前にいなければいけない。だが、いれば何をしていてもいい。自由な時間だ。とはいえ、集中してしまうと電話に気づかない可能性もある。ゲームはできない。
俺は、Zenlyを開いてみた。登録した人たちの居場所が分かるアプリだ。地図上に、交換した仲間たちの居場所が書かれている。ポパイたちは5人で、また、例のAPAホテルに泊まっている。テトラは、飲み屋街の一角で止まっている。確か知り合いの経営しているバーがあると言っていた。カミはまだ、シネシティ広場で走り回っているようだ。GPSのマークが、微妙に揺れ動いている。
俺は、ただのマークが、カミの鼓動のように思えた。愛おしくて仕方がない。早く会いたい。ただ、ひたすら、マークを目で追いかける。
ブルルルル。スマホに電話が来る。あっ。我に返る。急いで出る。
「終わりました」
「分かりました」
もう1時間が経っていた。俺は、ホテルの外で待つ。5分後、ナオだけが出てくる。
「お疲れ様でした」
労いの言葉をかけると、ナオは俺に、1000円札を手渡した。その後、どこかに電話をかける。彼女は人気者のようだ。その場ですぐに、次の仕事が入る。俺についてくるように指示し、また同じように、ホテルの前で彼女を待った。
こうして、この日は2000円を稼ぐことができた。それは、俺が初めて、自力で手に入れたお金だった。