第24話 児ポ

文字数 1,175文字

「ジーポッ! ジーポッ!」
 遠くから大きな歓声が聞こえる。またも、全身黒で固めた、カミの長い男がやってきた。自称トー横の王、西園テトラだ。他の人よりも少しだけスタイルがいい。
「ジーポってなに?」
 俺は、小声でカミに聞いた。
「児ポ? 児童ポルノだよ。テトラ、先日まで逮捕されてたの」カミは、こともなげに言う。
 犯罪者か。それでもテトラには、少女たちが次々と群がり、順番にキスをしていく。熱烈歓迎だ。すごい。何もかもが、訳のわからない世界。
「パブも昨日、私とやったから犯罪者だな」カミは笑う。
 えっ? 俺はまじまじと、彼女を見つめた。
「ヘスティアっていくつなの?」
「13」
 13! マジか!! 学生と聞いたから年上かと思ってたけど、まさかの年下かよー。いつの間にか俺も犯罪者? 俺は、キリストが十字架にかけられた時に登った階段の数を思い出した。しかし、あれで犯罪者になるのなら、そりゃ誰もがテトラに嫌悪感を抱かない。
「アゲー」テトラがカッコつけて手を挙げる。
「アゲー」俺も早速、覚えたての挨拶で返す。
「どうだ? 馴染んでるか?」
「おう。俺たちゃエバ友よ」デブが肩を組んでくる。てめーだけは許してねーぞ。俺は、イライラを顔に出さないようにした。
「パブ。もう名前は覚えたか?」
「テトラだよね?」周りはテトラの仲間ばかりで怯みそうになる。だが、こういう最初の挨拶は大事だ。みんなが値踏みしている。俺は、精一杯の虚勢を張った。
「そうだ。んで、パブと肩組んでんのは」
「ポパイだろ?」さっきのコールで覚えた。デブは嬉しそうだ。
「ポパイって知ってっか? ほうれん草食べると強くなる昔の漫画。こいつ、草食うと、喧嘩、超強えんだ。ま、パブには負けたけど」テトラは笑ってる。
「でも、もう喧嘩することはねーよ。な!」ポパイはさらに強く、俺と肩を組んできた。
「てめえが、ヘスティアの嫌がることをしなきゃな」俺がポパイの腕を払うと、「もうしません」と叫んで土下座した。東京では土下座なんて日常なのだろうか。
「それから、こいつはヤス。ポートピア連続殺人事件てエモいレトロゲー知ってる? 
 その主人公の名前だ。小さいけど、中学の時に、ボクシングでインターハイまでいったんだぜ」
「今は、コールのヤスって呼ばれてる。パブ。アゲー」テンションが高すぎる。少しでもテンションを下げないように、俺は全力で、ヤスに返答した。
「それから、女たち。エンプティー。リサリロン。ヒメ。ダラクちゃん。スズカット」
「よろー」
「アゲー」みんなバカ高いテンションだ。
 俺は選ばなくてはならない。一関に閉じ込められる社会か。ホームレスとして生きる社会か。それとも、カミたちと共に生きる社会か。この高いテンションについていけるかは心配だが、同じくらいの年齢の集団はここしかない。俺は、トー横界隈で生きる覚悟を決めた。
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