第26話 東京卍リベンジャーズ

文字数 1,895文字

 24時を過ぎた。広場は、遊んだ人たちが散々汚してはいなくなる。今は、若者たちはほとんどいない。代わりに、綺麗に着飾った男女が倒れて、吐いている。ケムリを吸ってハイになっている人たちもいる。
 夜1時過ぎ。何人かの大人が来て、ゴミを片付けて始めている。それを手伝う若者もいる。カミも手伝っている。俺は、彼らが配ってくれたボソボソのスパゲティーを食べながら、テトラと話していた。
「パブ。これからどーすんだ?」
「ホームレスの知り合いがいるんだ。ガード下は暖かいって言ってたから、お金稼げるまでは、しばらく、そこに住もうかと思って」
「ホームレスか。なんか、金稼げるアテでもあんのか?」
「まだないけど。明日、またバイトを探してみるよ」
「バーカ。15歳でできる仕事なんて、この日本にはどこにもねーよ」
 確かに、国の運営しているハローワークでもそう言われた。カミも、そう言っていた。俺たちが悪いんじゃない。働かせてくれない大人たちが悪いんだ。けど俺には、探す以外の方法は思いつかなかった。
 まぁ、もし仕事が見つからなければ、最悪、16歳まではホームレスをして、それから仕事を探そうかと思っている。廃品回収をするとお金がもらえる、という話もあるので、今度シモダさんに聞いてみる。あの人なら何とかしてくれる気がする。ちなみにね母からの連絡はいまだにない。
「パブ。なんか仕事、紹介してもらおうか?」テトラが提案する。
「えっ! あるの?」
「分かんねーけど。ハリスさんに聞いてみよう」
 テトラは立ち上がり、スパゲティーを配っている男に近づいていった。サングラスをかけ、紫色の髪をしている、まあまあガタイのいい男だ。年齢は30代だろうか。変な格好はしていないが、半袖から覗く腕には彫り物がしてあり、夜職の匂いもする。トー横キッズではなさそうだ。
「やあ、テトラ。お前から来るなんて、久しぶりだな」男は立ち上がった。
「アゲー」テトラは握手をする。
「相談があってさ。こいつ、親に捨てられたんだけど、15歳だから仕事がなくて。なんかいい仕事、紹介できねーかな?」
 サングラスを外した男は、懐から名刺を取り出し、ハツジを見上げた。
「ハリスだ。平和的テロリスト、新宿卍會の総会長をしている。信用していい。国からも、NPO法人として許可をもらっている。お前、デカイな。名前はなんてんだ?」
 名刺をもらうなんて初めてだ。大人になった気分で渡された名刺を見る。黒い紙に金の文字で、ハリス・パトローナムと書いてある。
 ハツジは混乱した。卍會って、『東京卍リベンジャーズ』のパクリじゃないのか? パクリでも国には認可されるの? それにハリスって、パトローナムって、明らかに『ハリー・ポッター』のパクリだよな? 外国人には見えないし、オリジナリティが全くないけど。しかも、平和的テロリストて。こういうの、ネットでは厨二病て言われてる奴じゃねーのか?
 もはや、何もかもが虚構に見える。だが、目は覚めている。この虚構こそが現実世界なのだ。一関で学校に通っていた自分だったら、絶対にこれが世界だとは分からなかった。だが、今では知っている。こここそが現実だ。こここそが世界だ。
「パブです。よろしくお願いします」大人に対してなので、俺は丁寧語で挨拶をした。ハリスは嬉しそうだ。
「仕事が欲しいのか。んー、お前に合う仕事は……。パブ。得意なことはあるのか?」
 得意なこと? 『フォートナイト』のエイムだったら自信がある。俺は言おうとした。だが、その前にテトラが口を出す。
「強い奴が欲しいって言ってなかったっけ? パブは喧嘩がすごい強いぞ」
「ほう」ハリスの目の色が変わった。ハツジの腕やお腹を触る。
「なるほど。なんかやってたのか?」
「いえ」ハツジは、YouTubeを見ながら神社で練習してたとは言えなかった。代わりにテトラが答えてくれる。
「でも、ポパイたち3人を相手に、瞬殺したぜ」
「おお。ポパイを? じゃあ強いな。しかも、デカいから迫力もある。よし。面接の紹介をしてやろう」
「喧嘩をする仕事ですか?」俺は不安に駆られた。
「いや。女性を守る仕事だよ。もちろん、喧嘩になる可能性もあるけど、ほとんどは話し合いで解決している。そこは心配ない」
「そうですか」
 俺は今まで、喧嘩が強いという自分の売り方をしたことがない。だが、ここでは売り物になるようだ。そういえば、母のツレはいつも、暴力を誇っている人たちばかりだった。「男は優しくあれ」と教会では教わった。だが案外、現実は、「男は強くあれ」が正しいのかもしれない。俺はとにかく、自分が認められたようで嬉しかった。
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