第41話 The True Hearts

文字数 1,191文字

 大鳥ケンジの主催する道場『True Hearts』は、新宿西口、ハローワークの路地裏にあった。一年前は、こんなところに未来があるとは夢にも思っていなかった。ハツジは、感慨深くビルの中に入った。何の迷いもない。
 入口の扉はガラス張りで室内が見える。中は、白い壁に囲まれていて広い。半分はサンドバックなどが置いてあり、半分は青いクッションが壁につけられている。奥では10人ほどの男たちが練習をしている。
 俺は扉を開けた。みんなが一斉に振り向く。俺が若いと見るや、おじさんの1人が言う。
「一般会員かい? 午前中はプロ練だ。見学はダメだよ」
 俺は返した。
「大鳥ケンジさんはいますか?」
 大鳥ケンジ?男たちはざわついた。
「君は何て名前だい?」
「パブ。そういえば分かるはずです」
「パブ?」
「はい。82と書いてパブです」
「分かった。ちょっと待ってな。あ、みんなは練習続けてていいぞ」
 男たちはすぐに練習を再開する。今は、2人1組になって、基礎トレーニングをおこなっているようだ。組み合って、立った状態から素早く伏せたりしている。1人ではできない練習。スタミナがつきそうだ。やってみたい。
 しばらく待つと、大きな声が聞こえてきた。
「パブー? なんだ、そのふざけた名前はー」
「ケンジさんの名前を言ってるんですよー」
「語る奴、たまにいるからなー。もしヤバい奴だったら任せるぞ。ハッハッハ」
「でも、良い体してるし、目つきも良いので、嘘ではないと思うんですがねぇ」
 声と共に、奥の扉からケンジがやってくる。覚えてないのだろうか。俺は不安になった。だがケンジは、一目見るなり、目を見開いて笑った。
「おーっ。未来のアデサンヤじゃないか! 遅かったな。来ないのかと思ったぞ。ハーッハッハ」
 ケンジは、俺の腕を叩いて喜んでくれた。アデサンヤと聞いて、男たちの練習が止まる。
「そいつ、強いんですか?」
 ケンジはニヤニヤとした。
「こいつはな、路上でジョーンを倒してるんだ」
 ざわつく。
「チャラそうに見えますけどね」男たちの眼光が鋭くなった。だが、俺と同じような階級はいなさそうだ。みんなチビ。話にならない。他人のことなどどうでもいい。
 俺は、彼らを無視してケンジに聞いた。
「俺、どうやったら世界チャンピオンになれますか?」
 練習を止めて、男がやってきた。ケンジの代わりに答える。
「ひたすら練習だな。もし本気なら、プロ練に参加するか? ここでチャンピオンという言葉を口にすることがどれほど重いことなのか、教えてやろう」20歳くらいの男。身長は175cmほど。ただのクリクリ坊主だ。
「教えてもらいましょうか?」
 俺は激っている。靴を脱ぎ、ズカズカと男の前まで詰め寄る。2m180kgのジャイアント・ジョーンを倒した俺だ。こいつらなんて相手にならない。
 ケンジは止めようとしない。蓄えている髭をさすりながらニヤついている。
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