第50話 罪と罰

文字数 1,467文字

 テトラたちは、ホッとした顔をした。だが、すぐに、俺以外は許されないということが雰囲気で分かった。俺がいなくなれば、自分たちの命の保証がない。3人は、再び震えだした。ありがたい申し出だが、俺もここで引き下がる男ではない。
「彼らはどうなるんですか?」
「こいつらかぁ?」リーはテトラの頭を、ヌンチャクの端でコツコツと軽く叩いた。
「社会のゴミは、生きたまま燃やしてやろうと思ってたが。ま。今回はパブに免じて、消去するのはやめといてやるか。だが、大人の恐ろしさだけは思い知らせないとな。もう二度と、悪さができねぇように」
 ポパイの肩を叩く。ポパイは、小さく悲鳴をあげた。
「まず、こいつ。完全に薬やってんな。薬が抜け切るまで、地獄の監禁てとこだな。エンジェルに連絡しろ」
「分かりました」
 クズリュウが、部下2人と共にポパイをつれていく。
 次はヤス。順番に肩を叩いていく方式だ。ヤスは、震えながら言い訳をした。ずっと考えていたようだ。
「お、俺は、すぐに、あいつにタバコを恵んでやりました。あれでチャラだったはずです。イタタタタタ」ヤスは、握力で肩を潰された。
「あいつ? 恵む? ガキはすぐに、自分の都合いいように考えやがる。テメェは荒療治が必要だな。トラ。こいつに裸で謝罪の言葉を100回言わせた後、貞操帯をつけて甘目森先生のとこへ連れてけ。礼儀を覚える必要がある」トラマルがヤスの腕を掴む。
「ヒイイ」
 貞操帯? 礼儀? 穏やかではない。俺はトラマルに近づいた。
「大丈夫。甘目森先生は、本当の礼儀の先生だ。ひと月もすれば礼儀を覚えられるだろう。俺はボスのリモコンだし、ボスは漢だ。お前との約束は必ず守る。絶対に殺したりはしない」
 ヤスを立ち上がらせて、グイと引っ張る。
「ま、逆らったら、腕の1本くれぇは取れちまうかもしれないけど、な」言葉の内容と違って、顔が本気ではない。俺は安堵して道を譲った。だが、当事者のヤスは気が気じゃない。
「パブ。助けろ! パブー」叫びながら引き摺られていく。
「まずは、口から歯をおさらばさせるか?」
 ヤスは震えたところを地面から引っこ抜かれ、軽々とトラマルの肩に担がれた。小柄なヤスとはいえ、大した剛力だ。トラマルが階段を降りていく音は、だんだん小さく消えていく。
「パブにはこれをやろう」
 リーからスマホを渡される。これでスマホは3台持ちだ。
「2人にはGPSをつけてある。それから、奴らが入る施設には監視カメラもある。俺らはガキを更生させるだけ。痛めつけるために連れていくわけじゃねぇ。このスマホには、トラの連絡先も入ってる。何かあったら、いつでも連絡してこい」
 すでに、この、リーというアウトローを信用している。一本筋が通っている大人だ。俺は、大人しくうなづいた。
「最後にお前だな。ハリボテの王」リーは、テトラの首根っこを掴んだ。まるで人形のようだ。まったく喚いたりもしない。
「自分がどんなに悪ぃことをしたのか、分かってっか?」
 凄まれて、テトラはうなづく。
「よーし。じゃあお前は、王として、明け方まで謝罪のラップだ。COROさんが教えてくれる。たっぷりと謝罪しろ」
 奥の部屋には、ミキシングマシンの設定をしている男がいる。明らかにヒップホップらしい格好。背は180cmもないが、全体的に丸い体をしている。喧嘩が強いタイプの体格だ。
「おー、待ってたぜ、トー横の王。降伏の頭。歌え、冒涜の盲」コロはすでに酔っているようだ。言われるがままにレコーディングルームに入ったテトラの、まるでお経や叫びのようなラップが始まった。
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