第10話 性と暴力

文字数 1,237文字

 体を洗って風呂にも入った。全身がスッキリとしている。心機一転とはこのことだ。俺はカミに、自分の決意について話そうと思っていた。体が軽い。カードキーの使い方も慣れた。もう、すっかり大人になった。簡単に部屋へと辿り着く。
 扉を開ける。カミー。声をかけようとしたが、待て。様子がいずい。俺は驚いた。狭い部屋に、全身黒の服を着た黒髪の男が2人ち背中を向けて立っている。
 場所を間違えたか? 2歩下がって部屋番号を見る。が、間違いない。先ほどと同じ部屋だ。でも……。いや、カードで開いたのだ。この部屋で間違いない。
 俺は、注意深く相手を見た。壁に隠れているベッドの半分では、女の嫌がる声と、間に喘ぎ声がする。暴れてもいるようだ。まさか……。
 俺は、男2人を押しのけた。そこには、四つん這いになったカミが、後ろから激しく、太った男に犯されている姿があった。
「いやっ。やめろよ! あっ」
「いつもやってんだろ? すぐ終わるよ」
「今日は嫌っつってんだろ? 殺すぞ。んん」
「でもお前、声出てんじゃん」
 デブは、カミの美しい黒髪を掴み、さらに激しく腰を動かしている。
 俺は御守りを握った。なぜか、勉強したばかりの日本史単語が頭に浮かぶ。天草四郎の乱。大塩平八郎の乱。俺の全身が一揆を起こす。毛の一本一本まで。全て、一斉に雄叫びをあげる。意識する間もなく、俺はデブに襲い掛かっていた。
 体の大きな人間は、他人に対する恐怖心が少ない。俺は、デブの髪を掴んで引っ張った。そのまま膝蹴り。ケンカの必勝法だ。朝倉未来のYouTubeで勉強した。リアルな友達のいなかった俺は、鬼死骸八幡神社まで走った後、いつも格闘技の真似事をしていた。もう、この動きは、1人でだが何千回も練習している。
 だが、初めて本物の人に試してみると、思ったよりも力が強い。まぁ関係ねぇ。俺のリミットは外れていた。デブを体ごと引っ張り抜く。
 倒して、膝蹴りをかまそうとする。だが、部屋が狭い。長い足を折りたたむことは難しい。俺は急遽、デブの頭を机に打ち付ける方法に切り変えた。
 余裕な顔で、俺のカミに酷い扱いをしていた報いだ。こんな奴、死んでもいい。俺は何度も、机の角に、デブの頭を打ち付けた。
 デブはブーブーと何か鳴いている。だが知らん。
 フリーズしていた他の2人も、慌てて俺を止めにくる。いい度胸だ。
 俺は、背中を何発か殴られた。が、体が熱くなりすぎている。全く痛くない。動けなくなったデブを離し、俺は2人に振り向いた。
 170cmもない奴が近くにいる。ムンズと上から髪を掴む。
 今度こそ引っ張りながら、顔に膝をお見舞いする。一撃だ。男は崩れ落ちる。
 奥の奴は逃げようとしている。
 逃がすもんか。そいつの髪の毛も掴む。
 そのまま壁に叩きつける。
 ゴシャ。長髪なので叩きつけやすい。
 こいつ! こいつ!!
「あん? 何が起きてんだ?」扉を開けたままにしていたのだろうか。新たな男が部屋に入ってきた。手にはコンビニの袋をぶら下げている。
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