告白

文字数 1,243文字

 湿った森を抜けると、崖の上に出た。
「ここまでか。」
 タボは別の道を探し始めた。

「見て!」
 崖の先に走って行ったポポが叫ぶ。

 崖の先には、広大な森と草原が広がっていた。大型の草食獣たちもいる。
「ついにたどり着いたんだ。」
 二人は、喜びなあまり雄たけびをあげた。崖はさほど高くない。きっと降りることができるだろう。二人が下を覗き込んでいるときに、後ろで木の葉の激しく揺れる音がした。

「シャー。」
 何かが激しくこすれるような音がした。
「あぶない。」
 ポポの言葉に振り返ると、大きな蛇がタボを庇うように突き出したポポの足に噛み付いていた。タボは蛇をやりで一突きにすると、ポポの足から三角の蛇の頭を引き剥がした。
「毒蛇だ。」
 足を切り離せば、助かるかもしれないが、二人の小さな槍では、それもままならない。徐々にポポの足が赤く腫れ上がる。それにつれて、息が荒くなり汗もひどくなってきた。

「すまない。僕がもう少し用心深ければ。」
 タボはポポの体を広げた毛皮の上に寝かせた。
「何言ってるの。約束は果たした。新天地についた。私の役目は終わったのよ。これからは別の世界で両親と一緒に暮らすの。」

「君は、両親のことを恨んでないのかい?」
「いいえ。私一人なら冬を越せると思ったのね。本当は生きるより一緒に死ぬほうが嬉しかったのだけど。」
 タボはあえぎながら答えるポポを見つめていた。
「君の洞窟に行ったのは偶然じゃないんだ。」

 ポポの母が消えたとき、彼女はクロマニヨンの集落に居た。しかし、誰も彼女の言葉は理解できなかった。彼女はしかたなく出て行った。
 その直後、タボがやってきた。話を聞いたタボは後を追った。数日後、見つけたときには彼女は雪の中で倒れていた。すでに手足は黒ずんで腐っていた。今で言う凍傷だ。彼女はもう助からない。
「娘がいるの。私が死んだらひとりぼっちになる。助けてあげて。きっとあなたの役に立つわ。」
 そう言うと安心したように息を引き取った。

「おかあさんは、君の事を頼みに仲間のとこにいったようだ。でも、言葉が通じず落胆していたよ。」
「よかった。」
 ポポは苦痛に顔をゆがめながらも、かすかに笑った。
「あなたに会えて、私達は幸せだった。今度はあなたの仲間を幸せにしてあげて。」
 そういって、ポポは息絶えた。
 タボは泣いた。両親が亡くなった時でさえも涙はでなかったが、初めて大切な人が居なくなった悲しみを感じていた。
「君は僕の本当の家族だった。」
 おそらく、ポポも同じ気持ちだったろう。

 タボは、丘の上にポポを埋めた。それから、安全なルートを探しながら、仲間の元へ戻った。翌年、タボたちは、ポポの眠る丘についた。かれらは、眼下に広がる肥沃な台地に降りていった。
 彼らをこの地に導いた偉大な英雄としてポポの丘はあがめられた。過酷な旅の疲れか、それから数年後にタボもこの世を去った。彼の亡骸は、ポポの横に埋められた。
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