試験

文字数 991文字

「お前もひやかしだろ。」
 料理長は機嫌が悪かった。というのも、この島では男は食材の調達をし、女は調理するというのが昔から当たり前だったからだ。
「未経験者はお断りなんだ。」
 せっかくの昼寝を邪魔されたからだろうか。ジンゴロをさっさと追い返そうとした。
「確かに経験はないけど家では毎日料理しています。」
 ジンゴロの言葉に料理長は閉じていた目を開けた。そして手招きをした。
「ちょっと手を見せてみろ。うそをついてもわかるからな。」
 彼はジンゴロの手の表と裏をじっくりと見た。手はきれいだった。爪も短く整えられている。いくつかの傷ややけどの跡も見られる。
「うそではなさそうだ。ちょっと試してやる、ついてこい。」

 キッチンへいくと彼は白い塊を削り、慎重に測りながら水で溶いた。4杯の水の入ったコップが並んだ。
「甘さの薄い順に並べてみろ。」
 ジンゴロはコップの水を舐めると2つのコップだけを並べた。
「どうした、降参か?」
 料理長は意地悪く尋ねる。
「いや、これは何も入ってない。」
 そういって、一杯のコップを指差した。
「ほう。」
 料理長はにやりとした。
「それと、こっちは塩水だ。」
 そういって最後の一杯を示した。

 料理長は大笑いした。人間はわずかな塩分だと甘みとして感じるものだ。甘いという先入観があればなおさらだ。ここまで言い当てるやつは滅多にいない。
「それじゃ、ここの食材を使っていいから自由になにか作ってみろ。」
 料理長は食料庫にジンゴロを連れて行った。
 ジンゴロは芋と魚を持ち出すと、海水で洗ってヤシの葉で包んだ。それから火にかけてあった石をいくつか穴の中に放り込むと、先ほどのものを置いて上から焼けた石と土をかけた。
 待つこと一時間。ジンゴロは掘り出した葉っぱを開いて、魚の身をほぐし、芋と混ぜると、夕食の仕込みをしている料理長に渡した。
「うちはいつもこれだ。他には知らない。」

 葉っぱを開くと、うまそうな香りが室内に漂った。料理長は一口食べて食器を置いた。
「まずかったか?」
 ジンゴロは不安になった。
 料理長の目からは一筋の涙が流れた。
「なんという優しく些細な味だ。絶妙な蒸し加減に、適度な塩梅。お前何をした。ただ洗って蒸しただけではないだろう。」
 料理長は夕食の仕込みで掘り出すところを見ていなかったことに後悔した。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み