満月の夜

文字数 547文字

 夏ならば木の上でも過ごせるが、冬山ではそうもいかない。二人は狭い岩穴に隠れるように身を潜めた。今夜は満月だ。狼達の遠吠えがいつににも増して激しい。
「失敗したわ。満月の夜は山に悪霊たちが集まるから近づくなと言われていた。」

 ポポの言う悪霊とは、狼や梟などのことだろうとタボは思った。満月になると、なぜだか動物たちの動きが激しくなる。
「入り口に、ニンニクの粉を撒いた。狼達が嫌う匂いがする。」
 タボが旅先で得た知識だ。

 かれらの時代、まだ自由に火を起こす技術はなかった。山火事などで自然に起きた火を大事に使うことしかできなかった。

 二人は、毛皮に包まって狭い岩の隙間で座ったまま眠った。表から聞こえる低いうなり声で、タボは目が覚めた。
「やつらがいる。」
 ポポが静かに告げた。
 二人は、杖の先端に撒かれていた毛皮を外した。そこには鋭くとがった黒い石のやじりがついていた。彼らはそれをゆっくりと入り口へと向けた。
「ここは、狭い。やつらもうかつには入って来れない。」
 タボの言葉にポポは
「狼を傷つけてはダメ。仲間が復讐にくるから。」
 と、忠告をした。

「オオン、クオン。」
 ポポが不思議な声を出し始めた。すると、さっきまで表の狼が放っていたまがまがしい殺気が消えた。
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