疑心暗鬼

文字数 808文字

 もし、政権に踊らされていると考えたらどうだ。仲間たちはショウゴを奪還しようとしている。その動きが狙いだとしたら。
「やつらにとって、レジスタンスは何としても排除したいだろう。」

 そういえば、昔聞いた事がある。壊滅した組織のリーダーを別の連中が脱獄させた。しかし、彼はスパイだった。互いの面識がなかったたため、スパイをつかまされたのだ。こうしてその組織も壊滅した。逆のケースもあるだろう。脱獄を偽装し、安心させて口を割らせる。あるいは、他の組織の連中をおびき寄せる。

 考えればきりがない。とにかく、安易にやつらの思惑にのらないことだ。

 仲間が執行日の連絡に来た。刑務官が直接教える事はない。しかし、裏のルートでいくらでも情報は手に入る。
「月が姿を隠す時、天の死者が舞い降りる。良き人の魂を手に入れるのは、神と悪魔のどちらが先か。」
 仲間が、詩を口ずさむ。良き人とはショウゴの事だ。新月の夜、刑が執行される。その時に奪還作戦が決行されるということのようだ。

 月が象の目ほどに細くなった。明日は新月だ。そう思うとショウゴは急に怖くなった。自分が死ぬ。そして、多くの仲間も犠牲になる。多くの命を弄ぶ自分はきっと悪人なのだ。絶対的な何かにすがりたくなる。鬼だ悪魔だと罵られるほうが、きっと心が休まっただろう。しかし、僧侶にしろ神父にしろ優しい言葉をかける。すると、己の心が、益々醜いものとして自覚されてくる。

 処刑方法も仲間が伝えた。広場で銃殺にされるらしい。処刑前日である今朝、国中におふれが出た。客を集めつつ、テロを防ぐ。そのために、直前に発表したようだ。しかし、すでに仲間たちが何日も前から準備をしている。広場近くに隠れ家を用意し、暴動を起こすための細工を進めているはずだ。
 どちらに転ぶかは解らない。すでに彼がどうこう言える次期は過ぎてしまった。とにかく、今は明日に備えて、体を休めるのだ。
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