死を待つこと

文字数 610文字

 死はさほど怖いものではない。しかし、いつやってくるかわからない恐怖と毎日戦うことのほうが苦痛である。
「ああ、こうやって不安にさせることで一日一日を生きてることへの感謝を植えつけようとしているんだ。」

 周りの囚人たちをみるにつけ、自分もいつか懐柔させられてしまうのだろうか。そう思うと早く刑を執行してもらいとさえ思うときがある。たまに外部との連絡係が軽微な罪で捕まってくる。罰金を払い一日から数日の投獄で帰っていく。本来なら死刑囚と同じ階に来る事は無いのだが、看守にも仲間がまぎれているので空きが無いとか、補修中などと称して同じ階に投獄させる。
 互いに直接言葉はかけない。囚人がいきなり騒ぎだすことがある。そんな時は、暗号通信だと思ったほうがいい。

 仲間が脱獄を計画している。しかし、ショウゴは自分ひとりのために多くの犠牲がでるようなことは好まなかった。自分がいなくても、自分の進んできた道が正しければ、きっと後継者が現れるにちがいない。体制が変われば、堂々と出ることもできるだろう。それまで生きていればだが。

 死刑囚の食べ物は粗末だった。確かに殺す相手に十分な食事を与える意味などない。一ヶ月もすると、自力で立つこともままならないほどに体力が落ちた。まだ、執行されない。周りの連中の刑は一週間以内に行われている。
「生かしておく意味があるのだろうか。」
 ショウゴは朦朧とする意識で、なおも考え続ける。
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