小梅

文字数 767文字

 小梅の元に来たジンゴロは出汁のとりかたと魚醤のつくりかたを教わった。
 海水から塩も作った。その塩で塩釜を作る方法も学んだ。干物や燻製などの保存技術の実習は面白かった。
 ジンゴロは暇があればカービングの練習をしていた。野菜のグラデーションを生かした一刀彫や、パーツに分けての組みの技法など、最先端の技術は、彼の制作意欲を刺激した。

 三年も経つとジンゴロの腕は師匠の小梅に引けを取らなくなった。彼が特に得意としたのは動物だった。それは、いくつものブロックで組み合わされており、ばらして食べることもできた。
「もう、教えることはありません。あとは、自分で技術を磨きなさい。」
 小梅は、一本のナイフをジンゴロに渡した。それは、刃の部分に見たこともない美しい波模様が浮き出ていた。
「これは、私の母国に伝わる小刀です。右利き用なので使うことはないでしょうが、私の弟子の証として授けます。もし、日出国に行くようなことがあれば役に立つでしょう。」

 ジンゴロはヒロと小梅の母国に行ってみたかった。そこでロクさんに頼んで1年修行にでることにした。
「あそこは、美しい国だ。しかし、時々箸にも棒にもかからないようなトップが政権を握ることがある。裏社会とも通じていると噂されることもある。政治には首を突っ込まないように気をつけろよ。」

 渡航は難航した。その国は小さな島国だったが、周囲に流れの速い海流があり、船が近づくのを拒んでいたからだ。蒸気船は速度をあげ海流のなかへ突進した。1度目は流れに阻まれ、押し戻された。
「火力を上げろ!」
 さらに速度を上げた。船は大きく揺られると同時に分解するのではないかというほどのきしみ音をたてながら向きを変えた。
「海流に乗っちまえばこっちのものだ。」
 船長は得意げにジンゴロに向かって笑った。
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