映画のような人生を

文字数 1,113文字

 新宿。かつて、この街で手に入らないものはないといわれた。世界有数の繁華街。華やかな表もあればどこまでもディープな裏もあった。
「この街でも無理なのか。もっと劇的でスリルに満ちた人生。そう映画のような人生というの夢物語なのか。」
 先ほどの客が、薄暗い裏路地に座り込んでつぶやいた。電波が届く限り、異変があれば体内に埋め込まれたチップが異常を知らせ、救急車が飛んでくる。
 洞窟の奥で餓死するか、火山に飛び込んで溶け去るか。死ぬ方法はいくつかある。しかし、人生をやり直す方法など、話の中でしかない。

 歩き疲れて、うとうととしていると
「だんな。だんな。」
 声をかけられ、目が覚めた。そこは、真っ暗な部屋の中だった。目が開いてないのか。男はすぐに異変に気が付いた。体が動かない。意識はある。もしかして、これが金縛りというやつか。
「気がつきましたね。だんな、ラッキーだ。」
 先ほどの店主だ。
「あ、意識はあるけど体は動かないから、話だけ聞いて。」
 男はお気に入りの銃を磨きながらしゃべった。
「旦那、リセットしてやり直したいって言ってたよね。実はだんな以外にも同じようなことを考える連中がいるんだな。そいつらは2つのグループに分けられる。何だかわかるかい。それは、金持ちと貧乏人。今時、クローンなら簡単につくることはできるけど別人にしかならない。さて、問題。装備が同じ主人公のRPGをやりなおしたらどんな結末になるでしょう。答えは、失敗した原因を理解していなかったら、同じ結末。つまり、知識も何も捨てて、クローンで人生がやりなおせるとしても、劇的に違う人生にはならないってことさ。じゃあ、装備を変えたらどうだ。金持ちは怖いね。自分の今までの体を捨てて、他人の体を使うことを考えたね。知識は捨てない。けれど装備は替える。まさに、PRGのリセットだと思わないかい。あんたは貧乏人。装備側だ。装備に意思はいらねえ。だが、生命維持には意思を消すわけにはいかないんでね。いま、だんなの体は、世界でも有数の金持ちの一人につながっている。そして、もうじき目覚めるそいつの意思が、旦那の体を動かすってわけだ。でもね、考えてもみなせえ。発想が貧困なやつがいくら頑張っても金持ちにはなれねえ。それは新しい発想のない奴が、いくら頑張ってもゲームをあがれねえのと同じだ。だんなは、どんなに頑張ってもたどり着けねえ、とてつもねえ金持ちの発想を体験できるんだぜ。そいつが飽きたら、こんどは別の奴がだんなの体を使う。まるで、映画を見ているみてえじゃなか。自分じゃストーリを変えられねえが、まったく思いもつかないストーリが体験できるんだ。じゃあな。」
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