火のとりあい

文字数 606文字

 火起こしができるようになると、人々の暮らしは一変した。煮炊きができるよになり、保存の利く穀物を本格的に育て始めた。

 虫たちが集まる。猛獣たちは避ける。腐った死体から自然に発生する虫は、死者の魂と考えられた。精霊を集め、悪霊を追い払う儀式にも使われた。死体から蝋ができ、燃える事も知った。

「火事だ!」
 自分の家へ、火をこっそり持ち帰り、不用意に火事を起こす連中が増えた。そのため、火は共同の場所で管理者の指示に従って扱っていた。大きな貝殻や甲羅は、煮炊きするのに便利だったが、割れやすい。燃料にする乾燥した植物も貴重だ。葉っぱで包み、火の粉が飛ばないように穴のなかで蒸し焼きにするのが主流になった。これなら、熱も無駄なく利用できる。芋と魚や肉などは低温での蒸し料理には向いていた。

 火のある村とない村で貧富の差が生まれる。当初は火そのものの奪い合いだったが、やがて道具、そしてより高温の火を扱える技術者の奪い合いとなっていった。近くの森林は切られ、木から炭へと進化した。高度に火を使いこなす彼らは、木を求めて山奥に住むようになり、やがて鬼と呼ばれるようになった。

 鬼と人は仲良く暮らしていたが、人は鬼を恐れ始める。鬼と人の間で商売を行うものが出始めると、人と鬼の接点は益々無くなった。頭を熱から守るために巻いた布や、帽子を見て角を隠していると思ったのだろうか。いつしか、鬼は角のある姿となった。
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