狐と狸

文字数 677文字

 体力が回復するまで、ゲリラ戦などできない。ショウゴは広場の近くの隠れ家に潜んでいた。おとりの仲間達が逃げ回る。まさか、死刑囚が刑場のそばに潜伏しているとは考えまい。灯台下暗し。 国家は恥をかいた。わざわざ民衆を集め、自分達の無能さを露呈させた。しかし、運はなおもショウゴに味方する。国王の退位が迫り、式典の準備と警備とで、大掛かりな捜索はできなくなっていた。

 ショウゴの脱走によって、知識人たちは奴隷制度に疑問を抱き始めた。人権を議論すればするほど奴隷制度の矛盾が浮き彫りになる。しかし、農家にとっては奴隷がいなければ安い農作物が作れない。外国に売れなければ外貨が入らず、国が疲弊する。必要悪。そんな便利な言葉で片付けられようとしていた。

 おとりはわざと一般市民に見つかるように逃げる。テレビも写真も無い時代。似顔絵だけで、本物をみわけることなど困難だ。
 死刑場から逃げたショウゴは、しだいにレジスタンスの英雄になっていった。彼は苦悩した。支配層を倒しても、自分達が同じことをしていては入れ替わっただけだ。万人が支配する事もされることも無い社会。これこそが、理想の社会ではないだろうか。

「現実を見ろ。だれかが導かなければ、群衆の秩序は維持できない。富を集中させなければ、外敵に対抗することはできない。尽きる事の無い富を持つか、鎖国でもしない限り、外国の食い物にされるだけだ。」
 ショウゴは政治に関しては、無知だった。かれはヒーローになれても大将にはなれないのだ。レジスタンスも力をつけるに連れ、彼の理想からかけ離れたものになっていった。
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