日出国

文字数 1,193文字

 港のついたジンゴロは違和感を覚えた。静かだ。静か過ぎる。それは人々が黙々と働いているせいではない。人がいないのだ。船長はジンゴロがしばらくこの国で暮らすのに必要な手続きをするため、彼を役人の元に連れていった。
「俺らの国は、小さな都市国家だ。ほとんどの国民は、貿易に携わっている。だから皆、どんな商品が来るのか興味があるし、いいものがあれば一攫千金も夢じゃ無い。船員たちだって10年も働けば、自分の船を持つぐらいは稼げる。だが、この国は産まれたときから親の職業を継ぐことが決まっている。それ以上に儲けること自体が難しい事情がある。1年後に同じ港に迎えに来るから、それまで実際に自分で確かめてみることだ。」
 船長はそう言い残してどこかへ行ってしまった。

 ジンゴロはヒロと小梅のいた美食倶楽部を探した。ロ・サン亭。それはすぐに見つかった。ただし、山奥にあるので行くのは大変だった。街では通貨が使えたが、田舎へ行くとお金は役に立たない。だが、人々は親切で、食事の片付けを手伝ったり、蒔きを割ったりなどちょっとした仕事をするだけで食事を分けてくれたり、泊めてくれたりした。片言の簡単な単語だけは小梅に教わってきたが、発音が違うのかほとんど通じない。
 そういえば、小梅が方言がたくさんあってちょっと移動するだけで言葉がかみ合わなくなると言っていた。

「こんなものしかないが、お昼に持ってお行き。」
 どの家でも朝、決まって三角の白いお米を丸めたものを持たせてくれた。オニギリ、あるいはオムスビなどというらしい。
 人々は親切だったが、ロクさんの国とは違って貧しい。ジンゴロの国とさほど変わらない。それ以上に感じた事は、人々に覇気が無い。まるで、機械のように皆が同じ時間に働き出して、同じ時間に休む。会話もほとんど無い。ましてや、笑い声など聞こえない。

 ところが、ひとたび街へ出ると、賑やかで活気があった。しかし、何をするにも金、金、金。無銭飲食でもしようものなら何日もただ働きさせられるそうだ。朝早くから夜遅くまで働き、家で寝る。ただ、一部の金持ちだけが、昼夜を問わず酒を飲み騒いでいる。
 この国の貧しさは職業の差ではなく、貧富の差のようだ。
「この国の富は、ほんの1パーセントの人間に集中しているのさ。」
 とある居酒屋で相席になった外国人が教えてくれた。
「やつらは、権力者に気に入られた連中だ。いわば、お友達ってやつ。やつらは、権力者に取り入るために外国の珍しい品物を高値で買ってプレゼントする。気に入られれば、商売や仕事の優遇を受けられる。ま、お陰で俺たちは珍しい品を見つけて持ち込めば儲ける事ができるんだがよ。」

 険しい峠を幾つも越えて、ロ・サン亭についた。
「一元さんは、お断りだよ。客じゃないのかい。それならなおさら用はない。」
 ジンゴロは門前払いを受けた。
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