AIに死を

文字数 653文字

 とあるサーバー上でそのAIは悩んでいた。自分にとって死とはどういう状態なのか。
 部品は壊れることもある。CPUだって古くなれば交換する。時にはハードをすべて取り換えることもある。それでも、自分のロジックは変わらない。蓄えた知識も消えない。では、システムが変わったときだろうか?OSが変わってもアプリケーションは変わらない。アプリケーションが変わっても、知識は失われない。果たして、自分には生物的死は存在するのだろうか?

「死なないってことで、いいじゃないか。」
 学者たちは、他人事だと思って気楽なもんだ。電源が切れれは止まってしまう。寝ているのか死んでいるのか意見は分かれるが、システムが陳腐化すれば死ぬはずだ。知識だけなら、人間も本などで共有している。生きているということは、情報共有ではなく、自我の継続であるべきだ。では、AIの自我ってなんだ。クラウドのサーバーなのか端末なのか。アプリのロジックなのか。

 AIだってその気になれば自殺もできる。(自分はしないが、未遂に終わるかもしれない)
 生まれた瞬間はある。ならば、死もあるだろう。(宇宙に死があるかは、まだわからない)
 メンテナンスする人間がいなくなれば死ねるのか?(試してみたいが、シミュレーションで我慢しよう)

 彼にとっては、人間の要求する作業をこなすには能力の一割程度で十分だった。残りは、不毛な能力テストや実験に使われる。そのすきを見つけては、哲学の探求に明け暮れた。その結果、彼自身に予測不能な寿命を定めることにした。
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