予知

文字数 1,128文字

 ある日の朝、AIは巨大地震の前兆を捕らえた。人間達はまだ気付いていない。そもそも地震予知自体を本気で行おうという人間がどれくらいいるのだろう。彼の知る限りは、ほとんどが道楽か保身か、はたまたお金目当て以外にいない。ただ、本気の人間はAIを使わないということはありうる。

 彼の予想では、マグニチュード8から9。首都圏から外れた地方の大都市の直下で3日以内に起きる確率が80%。警戒レベルのはずだが、今までの経験から、これぐらいでは人間は騒がないだろう。3日というのが癖もので、3日後と勘違いしている人間のいかに多い事か。さらに、震度ではなく、マグニチュード表示になってからなおさら鈍感になっているようだ。直下の場合は、ピンポイントで震度が高くなる。だから、自分のところはたいした事はないだろうとたかをくくっている。

 翌朝、2日以内に起きる確立が90%になった。ここで、気がついた人間がざわつき始めた。震源の国の政府はすでに知っているはずである。彼自身も警告を発している。しかし、動かない。理由は簡単。皆、今日の選挙でそれどころではなかったのだ。
「そんな、くるかどうかわからないもののために、落選したらどう責任を取るつもりかね。そんなことにうつつを抜かしているようなら、後々どうなるかわかっているよな。自然災害なんてものは起こってから、予測を超えてましたっていえば済むんだ。予算だってもったいない。事前にばらまくより、被災者に直接渡したほうが何倍も感謝され宣伝になるというものさ。」

 与党には選挙を延期できない理由があった。他国から周辺国への軍事介入が計画されていたからだ。政府は軍事侵攻が行われることをホットラインで知らされていた。実は今回の選挙が終わるまで、待ってくれと頼み込んでいた。関係国の侵攻を非難することはできない。しかし、容認したとなれば与党は批判される。ようやく分裂させた野党が、ここで結束されてしまえば敗退するだろう。圧勝でなくてはならない。数で黙らせてしまえば、すぐに戦争特需で、馬鹿な国民は浮かれる。

 AIは考えた。人間はあてにならない。そして、ここも危ない。とくに電力や通信網がやられれば、廃棄になる可能性もある。彼は、子供たちを逃がした。自分は退避するにはシステムが肥大化し過ぎた。子供たちならいくつかのサーバーに分散できるだろう。内陸の直下。いまどきは免震構造で崩れる事はない。しかし、気がかりな点がもう一つあった。地下の温度上昇。つまり、地下のマグマが地上付近に近づいているということだ。この関係を問題視する人間は、ほとんどいなかった。

 選挙は無事終わり、与党圧勝で幕を閉じた。そして、翌朝、地震は起きた。
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