アンポンタンと倍々金

文字数 633文字

「まずは、その王子とやらの姿を見ないと話にならんな。」
 マイは商人を追い返そうとした。
「肖像画を描いてきた。」
 粘土版に刻まれた丸い顔は、まるで幼稚園児が書いたアニメキャラのようだった。
「アンポンタン!」
 マイは工房に戻っていった。

 ドアの前では商人が困ったように座り込んでいた。
「ほれ、行くぞ。案内せい。」
 大きな袋をしょった老婆が、うなだれていた男を蹴った。

「往復するにはひと月ほどかかりますが、工房は大丈夫なんですか?」
 商人が連れてきた街の宿には、別の若者がいた。かれは、王の護衛だという。
「なあに、優秀な連中がそろっているでな。老いぼれ一人、いなくても問題ないわい。」

 歩いて海辺の王都に向かった。野山を駆け回り粘土を探し続けているマイは、とても老婆とは思えない力強い足取りだった。
「ちょっと、休みましょうや。」
 メタボな小太りの商人が音を上げる。
「しかたがないの。」

 3人は川へ出た。舟で川を下っていくことにした。幸い乾期で水量は多くない。舟といっても丈夫な筏といったところだ。しかし、転覆すれば命が危うい。
「先生は私がお守りします。」
 護衛の若者が力強くいった。
「おお、これは百人力。」
 喜ぶ商人に
「お前までは手が回らん。」
 と冷淡に言い放った。
「今の給与の倍を出そう。だから私を守れ。」
 商人はそっと若者に耳打ちした。
「だめだ。」
「さらに倍だそう。倍の倍だぞ。」
「いくら出そうとだめだ。」
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