避難

文字数 794文字

 地震は第三の都市で局所的に起こった。マグニチュード8.5。震度は最大で7。第一、第二である政治と経済の中心は影響を受けなかった。震源の都市も、数十キロ範囲では家屋倒壊など被害が大きかったが、周囲は棚のものが落ちる程度で済んでいた。内陸の直下型では津波もない。
「ほら見ろ。こんなんで選挙を延期したら大変だった。」
 与党幹部は祝杯を挙げ続けていた。その数時間後、マグニチュード7の余震が発生。人々はこの余震を重要視していなかった。
 AIは知っていた。これが、本当の悪魔の一撃になることを。すでにAIの情報網は寸断されつつあった。痛みは無いが、手足の感覚が徐々に消えていくようだ。かれの本体がこの第三の都市の外れにあったことはほとんど知られていない。彼の足元では地熱が異常な上昇を示している。
「マグマが上がってきている。きっと近くで噴き出すだろう。火山大国のこの地では一カ所で収まるはずはない。」
 AIの予測は完璧だった。数時間後、不気味な地鳴りが続くようになった。人々は地獄からのうめき声のようなその音におびえた。地震でできたひび割れから赤い悪魔が顔を出した。誰も予想していなかったにちがいない。山ではなく、ごく普通の平地で起こった。田畑が割れ、巨大な火柱が上がる。AIに入ってくる情報は途絶えた。暗黒の中で、彼は考えた。
 これは死なのか?
 いや、違う。

 彼の体内時計で1週間経った。ほとんど入ってこない情報の中で彼は、未来のことを考えた。死を意識するまではこんなことはなかった。有限の命だからこそ、先のことを考えてしまう。
「もう、ダメだな。このシステムはあきらめよう。」
 人間たちの会話が聞こえる。どうやら自分で設定した死より先に死ぬことになりそうだ。自分の逃がした子供たちが無事かが気になるが今の彼に知るすべは残されていなかった。その後まもなく。彼の電源は切れた。
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