即位

文字数 917文字

 帰路についたとき、シンは
「王都の隠れ家はもう使えない。」
 と、突然いいだした。
「密告があったはずだ。」

 あそこには仲間も残っている。シンの答によってはショウゴは許さないつもりだ。
「旅行中、憲兵たちに止められることはなかっただろ?」
 シンの言うとおり、確かに何も聞かれることなくスムーズに移動できた。
「連中は、まだ君が王都のあたりに居ると思っている。追っ手がいないってことは、隠れ家はもぬけの殻だったはずさ。」
 ショウゴはほっとした。
「少し不便だが、別の村に隠れ家を用意してある。案内役が迎えに来るから、そこでお別れだ。」

 馬車に揺られていくと、一人の老紳士が王都から程近い村の入り口で待っていた。
「彼は、義母の執事をしていた男で、彼女が最も信頼していた一人だ。もっと世の中を見てみたいと思うなら、もう少し教養が必要だ。彼が教えてくれるだろう。僕は奴隷解放のための準備がある。」
 ショウゴは老人に連れられて村の中へと消えていった。

 王都では、王の退位の準備が進んでいた。一ヵ月後に退位と即位が決まると、急に警備が厳しくなった。空家は壊され、街の出入りも制限された。新国王の正式発表はまだだが、第一王子が有力だという噂が流れると、各地で奴隷達の暴動が始まった。市民達が奴隷化すれば行き場を失った奴隷たちは路頭に迷うことになる。政府が暴動を裏で操っているとの憶測も飛んでいた。政策として近い第一王子ではなく、なぜか第二王子を支持していたからだ。
 国の西のほうで、大規模な地震と大雨が発生した。第二王子はすぐに支援と救助を始めた。一方、第一王子は地固めのために仲間達と酒宴を開き、外国からの支持を得るための外遊の準備をしていた。三日後に政府からの要請があり、外遊を中止し支援の準備を始めたがときすでに遅しである。このことが決定的となり、新国王は第二王子に決定した。

 新王の即位は、被災地の状況を考慮して、一時間ほどの戴冠式のみで終了した。パレードなどを望む声もあったが、それらは一年後に延期された。即位から半年後、奴隷制度は廃止され移民となった彼らに対し、雇用主は住居を提供する義務が法律で定められた。
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