命の土

文字数 1,064文字

「おぬしは、これを守れ。」
 マイは袋を若者に託した。
「これは?」
 ずしりとした重さがある。
「土じゃ。器づくりでは、土が何よりも大切じゃ。こねては寝かし、何年もかけたものだ。よい土がなければ我々は死んだも同じ。」

 若者は、袋が濡れないように抱えた。筏は何度か岸にぶつかったり、浅瀬に乗り上げたりした。何度も筏が壊れ、川に投げ出されることもあった。しかし、若者は袋を水につけまいと必死で頭の上に持ち上げた。三人は、なんとか河口の中洲にたどり着いた。
「海は危険です。ここから王都に入りましょう。」
 ずぶ濡れの三人は、中洲で服を乾かした。袋も多少濡れはしたが、何重にも毛皮でくるんであったため無事だった。

「病気の王子とやらは、おぬしにとってはよほど大切な存在なのだね。」
 マイは袋の中から土を取り出すと、大きな乾いた石の上でこねだした。
「こうやって、時々手をかけてやらねば土は死ぬ。キメの細かい柔らかい土は乾いても割れにくくなる。」

 出発して十日後、ようやく王都についた。街には色々な市がたち、見た事の無い食べ物や、衣類が売られている。
「ぐう。」
 商人のおなかが鳴る。
「城ですぐに食事を用意させます。」
 護衛の若者は、なぜか顔を隠すように帽子を深くかぶり小声で話す。三人は裏門からこっそり城に入った。商人とマイは番小屋で待たされた。

「これからのことは他言無用です。」
 別の男がマイだけを、中へと案内した。城の暗く狭い通路を抜けた。よほど見られたくないのだろう。隠し通路を進み小さな部屋に出た。そこから廊下を進み、別の部屋に入る。中には1人の若者が立ち、奥に老人が寝ている。
「王子、連れてまいりました。」
「ごくろう。」
 若者には見覚えがある。護衛として一緒に旅をしてきた。
「父上、マイ先生をお連れしました。」
 ベッドに横たわる老人は力なくうなづいた。しゃべろうとしてもうまく口が動かないようだ。

 病気なのは国王だった。国王が病気だとわかると内乱や、隣国が攻めてくる危険がある。そこで王子が病気ということにしていたのだ。
「わたしは、第二王子のコペン。身分を隠していた事をお詫びします。」
 王子はマイの前に膝まづいて、わびた。
「かまわんよ。わしにとってはお主が何者かということなど関係ない。旅の途中でお前の気持ちはしっかりと見せてもらった。」
 マイは、王に近づくとじっくりと観察した。不自然なむくみと黒ずんだ顔色をしている。王子とマイは別室に移動した。
「あれは本当に病気か?」
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