永遠の命

文字数 880文字

 人類の夢である長寿。科学の進歩は、人間は臓器をコピーし移植し続ける事で死なない体を手に入れた。知識、経験その全てを失うことなく、老いる事も無く生き続ける。当初、人類は理想郷が実現したと喚起した。しかし、百年、二百年と時が経つうちに、絶望が広がり始めた。

 ゴールのないゲームで遊び続ける空しさ。

 全てを初期化して、やり直すこともできない。究極のくそゲー。自殺者が急増したのも無理はない。しかし、医療の進歩は死者さえも生き返らせてしまう。必殺請負。生き返ることのできないほどに粉砕し、確実に殺す裏職業。ついにはこんなものにまですがるようになってしまった。

「お客さん、何歳?」
 お気に入りの銃を磨きながら、机の奥でタバコをくゆらす男が、入ってきた若い男に聞いた。
「千の後は数えておりません。」
「随分と生きたもんだねえ。それで、現世という遊園地は飽きたってわけかい。」

 彼の依頼は変わっていた。自分という存在を消してくれというのだ。存在自体を消すのではない。地位も名誉も経験も捨てて、新しく人生をやり直したいというのだ。
「嫌な記憶も多くてなった。ボケというものがあった時代は、そういった記憶ともに罪の意識も消えるものだ。しかし、いまや記憶は鮮明だし、検索すれば過去の悪事もすべて見つける事ができる。体も元気で歳を取ったという言い訳もできない。おかげで、一生働き続けなければならない。最近は、何も知らずに無邪気に遊んでいた子供のころの夢をよく見る。あの頃はよかった。もう一度あのころに戻りたくてな。」
「だんな。それは無いものねだりですぜ。うちは殺すだけ。それは再生屋の仕事。でも、そんなんは漫画の世界だけですぜ。」
 客はソファーから立ち上がった。

 少々違うが女性なら単為生殖という男性を必要とない出産の技術がある。しかし、男性にはそんな能力もない。店主は、うなだれて部屋を出て行く客に向かって叫んだ。
「死ぬ事に無い世の中で、生きてる事に価値を見出そうなんて愚かなことだ。俺たちはロボットさ。朽ちる事も無く、永遠にこき使われるだけさ。」
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