砂漠

文字数 714文字

 二人の体は、突き出した岩の上でようやく止まった。ポポの両親が残してくれた丈夫な毛皮のお陰で、怪我はなかった。
「見て、タボ!」

 彼はポポの指すほうにゆっくりと振り返った。連なる峰の下に、広大な黄色い大地が見えた。
「砂漠だ。」
 風は止み、あたたかな日差しがあたりを包んでいた。
「すごいよ。僕達、氷の大地を越えたんだ。」
 タボは喜んだ。
「そうね。」
 それに比べポポは、少し寂しそうだった。いや、戸惑っていたのかもしれない。ここから先は、自分の知らない世界。ガイドとして、もう役に立たないかもしれない。そう思うと、不安でしかたなかった。

 よほど、嬉しかったのだろう。なだらかな斜面を降りながら、タボはしゃべり続けた。
「僕の両親は、幼いときに死んでしまった。何日も咳が続き、体が弱って何も食べられなくなった。その後、僕は仲間の家族に育てられた。食べ物も他の子と同じようにもらえた。不自由はなかった。でも、ぼくは両親に抱いてもらうことはなかった。だから、一人で旅に出る事にしたんだ。こんな僕でも、新天地をみつけたら本当の家族として認めてもらえるかもしれないって。」
 ポポは黙って聞いていた。

 数日後、二人は砂漠の中にいた。暖かくなるにつれて、タボは元気になっていった。しかし、それと引き換えにポポは元気を無くしていく。初めのうちは、見知らぬ土地で寂しくなったのだと思った。しかし、少し移動すると息が激しくなり、頻繁に休むようになった。体が大きく体毛の濃いネアンデールタールにとって砂漠の暑さは過酷だった。タボは日陰の砂を掘って、冷たい砂の上でポポを休ませた。
「すまない。つい自分のペースで進んでしまった。」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み