氷の王

文字数 873文字

 ポポの言う王は、狼のリーダーや、蜂の女王のような存在を指しているようだった。
「狼や熊は氷の王を守っているの。だから、山に近づくものは襲われる。ポポたちには長いときをかけて、氷の王から山に入ることを許された道があるの。そこでは、どんな動物も道に迷う。ポポたちだけが正確な方向を教えてもらえるの。」
 そういうと、雪と林の中のへと進んでいった。

 どうやら、ネアンデルタール人の体内には、今で言うところの方位磁石のようなものがあったのだろう。
 うねった木の中を進むうちに、タボは方向がわからなくなっていた。普通、木は太陽のあるほうに枝を張り出しているものだ。しかし、ここの木々は、それぞれが思い思いにあらぬ方向に枝に伸ばしている。また、雪の積もった真っ白な斜面はどこも同じに見え、同じところを回っているような錯覚を覚える。

「ポポ。ここ、さっき通ったところじゃないのかい?」
 タボは不安になってきた。
「フフ。ほらあそこの木をを見て。熊の爪あとが3つ。さっきの場所は2つだった。ここの木はどれもまっすぐで似ているの。だから、初めての人には区別がつかない。でも、私達は一度通った道はすみずみまで正確に覚えている。だからこの森でも迷わない。いま、私達は太陽の昇る方向にまっすぐ進んででいるわ。」
 ポポの話では、二人は東に向かって進んでいるようだ。山は上下の変化はわかりやすいが、横への変化はわかりにくい。ましてや斜面伝いに、同じ方角に進み続けるのは至難の業である。
 ポポは五歳だったが、タボの種族での十歳以上に匹敵するだろう。ポポの種族は成長が早いようだ。体も頑丈なため、急な山道でもまったく疲れない。

「オオウ。」
 遠くで狼の声がした。
「氷の王が警戒している。でも大丈夫。狼達もここまでは入ってこない。」
 あたりが薄暗くなってきた。
「もうじき日がくれる。どこかに隠れたほうがいい。」
 タボは先を急ぐポポに叫んだ。
「私は案内するだけ。他は、タボに従うわ。」
 懸命な子だ。彼女が最後まで生き残ってこれた片鱗がうかがい知れた。
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