ミッチー・バロック、さぼろう

文字数 980文字

 料理長、ミッチー・バロックは元は宮廷料理人だった。宮廷料理は華やかではあったが、彼の心は満たされなかった。食材もふんだんに使える。手間もかけられる。元々伝統的な料理を中心に健康によい料理を作るものだった。しかし、今は権力を来賓に示すための目先の変わったびっくり箱のような料理が求められる。
 やがて、ノイローゼになり仕事もたびたび休むようになってしまった。
「あいつは今日もさぼっているのか。」
 厨房では、あきれていた。

 そんな折、船のコックを募集していること知った。彼は、志願した。限られた材料でつくるそれは決してうまいものではなかった。食材が足らずに空腹を満たせない日も数知れずあった。それでも食事は船員にとっては長い航海中の唯一の楽しみでもあった。自分の料理を心から待ちわびている人間がいる。かれは忘れかけていたものを取り戻せた。
 それからの彼は少しでも船員たちの健康を維持できるように研究した。船乗り達の多くが新鮮な野菜がとれずにビタミン不足になりやすかった。さらに保存の技術がなく、多くの食材が塩漬けで塩分の取り過ぎになっていた。
 上級の船員は1日三交代で勤務した。一般の船員は天気がいい時には暇だった。が、ひとたび海が荒れると休み無く働かなくてはならない。体力と気力が必要なのに、厨房は危険なため火が満足に使えない。
 冷めたスープと固いパンで荒波を乗り越えなくてはならない。冷めてもうまい食事を探して旅をした。

 やがて、日出国で美食研究家のロ・サンジと出会う。不思議な国だった。旨みという不思議な味わい。冷めるほどに味わいが増す料理。食べる人のために手間を惜しまないおもてなしの心。これこそ、彼が求めていた料理の道だった。
 ロ・サンジは弟子のヒロをバロックとともに旅立たせた。あるときはヒロから学び、またあるときはヒロに教える。そうして二人は今の船団で暮らすようになった。
 日出国からはもう一人の料理人が来ていた。田舎村の小梅という女性だった。海の女神は嫉妬深いといわれ、女ゆえに船員にはなれなかった。彼女の包丁さばきはすばらしかった。女性ならではの繊細さと家庭料理の温かさを備えていた。彼女は郷土料理を学んでいた。ジンゴロは彼女に預けられた。島に帰る彼には、特殊な食材の宮廷料理よりも、普通の家庭料理のほうが役にたつからだ。
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