貿易

文字数 1,109文字

「市民グループには政府から多額の補助金が出ている。特区や振興費、さらには政治団体への献金までもが流れ込んでる。土地もただ同然でもらっている。製品は計画に応じて政府が買い上げてくれる。特区制度で税金は免除されているし、雇用人数に応じた補助も出る。赤字が出ても補填される。企業努力なんかしなくても儲かるようにできてるのさ。」
 工場を出るとシンはショウゴに言った。
「なら、なぜ商談を?」
 ショウゴは不思議に思った。

「外国には、粗悪な布でも再加工する技術を持つ国がある。彼らには技術はあるが、材料がない。もともと小さな島の集まりだ。材料がないから再利用の技術が発達したともいえる。それを再輸入して売るんだ。義母のパートナーの事業の手伝いだ。」
 シンの話を聞いてショウゴは、世の中には色々な人たちがいるんだと感じた。ショウゴは外国を見てみたいと思った。
「死刑囚で逃亡犯ときたもんだ。すぐには外国にはでられないな。でも、あきらめなければ世の中がかわっていつかいけるかもしれない。」
 本気なのか気休めなのかわからないが、シンの言葉を聞いていると不思議にいつか叶う気がしてきた。

「第一王子が王位についたら僕らはどうなるんだろう。」
 ショウゴはふと思った。
「王位継承は、王族の協議で決まるんだ。まだ、どちらがとも言いがたい状況だ。新王の政策が失敗すれば市民グループが革命を起こすだろう。王族とて安易に決められないのさ。」

 二人は、馬車に乗り港に向かった。大きくは無いが、深い入り江には大きな外国の船が何隻か泊まっていた。様々な肌の色の人がいた。粗末な服装で重たそうに袋や樽を運んでいるのは奴隷たちだ。巨大なマストに船員たちが器用に登っている。シンは工場から持ってきた見本の布を外国人に見せている。相手は、頭の上で髪の毛をしばり彩り豊かな布でできた服を着ていた。四角い箱を手に持ち、パチパチと音を立ている。
 隣の船の上では、数名の船員たちが樽を囲んで座り、騒いでいた。おそらく暇をもてあまして賭けでもしているのだろう。
 ここは、国内で一番活気のある場所だろう。
「貿易によって人々は豊かに暮らしている。すべての人が順風満帆とはいかない。しかし、失敗してもやり直せるチャンスがいくらでもある。夢が見れるうちは、人はどんな困難でも我慢できるのさ。」
 ショウゴはシンの説明を熱心に聞いた。
「義母は色々なところに連れていってくれた。ずっと用心棒として連れて歩いているものだと思っていたが、今にして思えば僕に世の中を見せてくれていたように思う。」
 シンは、港から遠くの沖をじっと見ながら寂しそうに話してくれた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み