それぞれの道

文字数 1,063文字

 かくして奴隷は移民となった。移民は政治にこそ参加できなかったが、暮らしは市民なみに向上した。移民の生活が向上すれば物価があがっても不満はでない。しかし、面白くないのは市民だ。
 いままでは
「奴隷の代わりになら雇ってやる。」
 といわれて首を縦に振るやつはいなかった。しかし、移民となれば別だ。
「移民がわれわれの職場と住居を奪った。」
 満足な仕事につけない市民達のデモは急増した。移民を管理しやすいようにと郊外に大規模な工場ができ、多くの移民が就労するために移り住み移民の集落ができた。

 都市で働く市民たちは、一方的に与えられたノルマを達成できないものは怠け者の烙印を押され、遅れた分は無給で働かされた。賃金は従来の半分程度の労働者が増えた。都市の企業は住居提供義務のない市民を雇う。市民の多くが、住居を持たないホームレスとなった。

「移民を排除しても、その先には、市民の奴隷化が待っている。」
 シンは街頭で演説をした。結局は一部の富裕層にだけ富が集中していく。安い労働力なしでは技術のとぼしい国は外国との製造競争に勝つ事はできないからだ。本来、移民がいるから市民の仕事も増える。シンは国民としては階級が低い。だから国民の代表になることはできなかった。しかし、彼を慕う人間は増えていった。そして、政治団体の代表に位置するまでになった。

 一方、ショウゴは移民になったことで、死刑囚ではなくなった。逃亡については犯罪歴として残ったが、刑がなくなった事で、国家賠償請求をしないことを条件に不問とされた。
 晴れて自由の身となった彼は、早速、外国へ出かける準備を始めた。例の粗悪な布のリサイクル事業での輸出に同行することになった。シンと別れて以来世話になっていた老紳士のムーアから簡単な外国語も教わった。渡航に必要な費用はシンがあらかじめ用意してくれていた。

 政府と市民グループの狙い通りにことは進んでいた。かれらがデモを扇動している。市民と移民の間で衝突が起こるが、即位したばかりの王には国民をだまらせるような力はまだない。そんな中で、王は自粛を呼びかけたが、政府は補助をばらまき、新王の即位一周年記念行事を市民ベースで大々的に行った。その結果、不満は王族達へと向けられることとなった。

 王族の所有する主だった企業の多くは外国にある。外国で勤勉で安い労働力を使っていた。危機を感じたかれらの半分ほどが国外へと逃げ出した。勢いづいた市民は、いよいよクーデターを起こそうとしていた。そんな矢先に事態は一変する。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み