別れ

文字数 534文字

「その足では薬草を採りに行くのも大変だろう。」
 ンガボの左足は生まれつき短かった。師匠のダンガは木製の靴を作った。杖の先に、ンガボの左足の高さにあわせた木靴を取り付けた。左手で杖を移動させれば、足を左右交互に同じペースで送り出せるため、さほど不自由なく移動することができるようになった。

 この義足杖のおかげで、なだらかな森の中なら普通に薬草を採りに出かけられた。ダンガは彼が入手しやすい薬草を中心に教えてくれた。ほかにも、しょっぱい土や、きれいな水の作り方など当時の最先端の知識を惜しみなく伝えてくれた。

 遠くに住む呪術師の中には、幻覚作用のある植物を使うものもいたが、師匠は
「一時的に元気になっても、治っているわけではないのですぐに悪くなる。あんなまやかしに頼るんじゃないぞ。」
 と、よく言っていた。

 ある日、ンガボが薬草採りから戻ってみると、師匠が居ない。近くの村人が、がっしりした数人のよそ者につれられていったと教えてくれた。
「死はいつでも簡単にやってくる。だから生き抜くことが大切だ。母親が苦労して産み育てた命だ。無駄に死んでよいものではない。」
 患者に対して師匠がいつもいう言葉だった。ンガボはその言葉を信じて師匠の帰りを待つ事にした。
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