帰国

文字数 542文字

 ジンゴロは故郷の島に帰ってきた。母はすっかり弱っていた。ジンゴロが島を出てからというもの心配で食が細くなったというのだ。ジンゴロは小梅に教わった料理を作った。
「日出国で一番人気の家庭料理だよ。」
 母はジンゴロのつくた肉じゃがを一口食べた。
「これが、異国の味かい。ありがとうよ。」

 ジンゴロが港の近くに店を出すと、ほどなく母はあの世へと旅立った。それは、まるで彼が帰ってくるのを待っての旅立ちのようだった。彼の店は安くてうまいと評判になった。無国籍B級グルメとして港にくる船乗りでにぎわうようになった。
 焼きそば、ラーメン、豚丼などはもとより、地元の芋料理や蒸し鶏も出した。魚醤も島の魚でつくった。日出国のそれにはまだ及ばないが、暑いこの島では多少酸味がある彼の魚醤のほうが向いているようだった。
 今、彼の店の周りには他国から来た屋台が並んでいる。ケバブやフォーの店もある。最近、ドーナッツと揚げパンの店ができた。向かいでは開店に向けてピザ窯を造っている。

 師匠たちはもう歳なので、島にやってくることはなかったが、時折ヒロやヤツがやってきては異国の料理を作ってくれた。それは日常の中の非日常。島の人たちの気持ちはその度にリセットされ、新たな日常を紡ぎ始めるのだった。
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