氷河

文字数 1,118文字

 タボは雪と氷の大地を目指した。その先に灼熱の大地がある。それを越えることができれば緑豊かな大地があると、旅の仲間から教えられた。氷の大地を越えられる者は、灼熱の大地で息絶える。灼熱の大地を越えてやってくるものは、氷の大地に阻まれる。こうして、どちらからも行き来ができない状態が続いていた。
 タボは旅の中で、これらを越える術を身につけた。水の集め方や食べ物の保存方法など。薬草の知識も身につけた。氷の大地は冬でないと越えられない。暖かくなってしまうと雪崩やクレパスに落ちる危険が増すからだ。
 寒い地方の巨人族に防寒のための毛皮の衣類の作り方も教わった。食料も十分確保した。氷河は年々広がっている。今年こそは、その先の灼熱の大地に到達しなければ、間に合わなくなる。
 その焦りからか、彼は雨上がりの緩んだ雪と氷の上を滑りながら歩いた。

「ボコッ。」
 鈍い音がして、彼の足元の氷の塊が沈んだ。気がつくと、彼は氷の裂け目にはまっていた。高い氷の壁の中、よじ登ることはできそうになかった。
「まだ、少し早かったか。」
 そう思ったが、後の祭りである。冬山では助けを呼ぶこともできない。食料があっても、水が得られなければ数日で死ぬだろう。かれは、遠くにいる仲間のことを思い出していた。

「怪我してない?」
 裂け目の上から、女性の声がした。その声には、聞き覚えがあった。
「ポポかい?」

 よほど、一人で暮らすの嫌だったのだろう。どうやら、タボの後をつけてきていたらしい。
「つるのようなものはないかい?」
「無いわ。」
 ロープなどない時代だ。植物の長いつるでもない限り、小さな女の子には彼を助け出すことなどできなかった。彼女はあたりを見回した。急な斜面にできた縦の亀裂。雨上がりで、太陽は南の空高くまぶしく輝いていた。
「そこで、伏せていて。」
 ポポの指示にタボはわけもわからず従った。

「バフォー。」
 ポポはありったけの声で叫んだ。彼女の声は、山の斜面にこだました。
「頭を伏せて。」
 そういって、ポポはタボのいる裂け目に飛び降りてきた。

「ゴゴゴゴ・・・。」
 ほどなく大地がうなりをあげる。それは、徐々に大きくなり、地響きとなった。ポポはタボの上に覆いかぶさると、大きな毛皮をしっかりと被った。
「ドドドドド。」
 二人の上を何かが通り過ぎていく。それはまるで、マンモスの群れのようであった。

 静かになった時、ポポは二人にかぶさった、雪の塊を蹴り上げた。
「ボコ!」
 鈍い音と共に、強烈な光が差し込んだ。氷の壁は消えていた。ポポが雪崩を起こしたのだ。彼女は雪崩によって彼らの上にあった雪を払い去ったのだった。
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