巨大土偶

文字数 1,370文字

 マイの作った王の人形をもとに、工房では実物大の王の立像を制作した。軽くするために中空にする。窯にいれるために像をいくつものパーツに分割した。割れたり縮んだりするものも多いため、いくつも焼いて使えるものを残す。はじめてのことだったが、誰もがあきらめることは無かった。焼きあがると、割れないようにじっくり冷ます。完成したパーツは、職人たちが背負ってマイの待つ城へと運んでいった。

 街の者も城の者も信用ができない。彼女が唯一信頼できるのは苦楽を共にしてきた職人たちだけだった。一人の職人が城に残り、王子と共に組み立てを手伝った。
「この国は、師匠が居なくなってから変わった。」
 王子は、マイに王宮で起こったことを語った。

 かつて、城には王の信頼を得ていたジャック・ストロウという宰相がいた。元は王家の剣の指南役であったが、邪悪な呪術師たちを追い払い、近代的な国家を作る礎となった人物である。しかし、彼は密輸を行った海賊として追放された。彼の家から禁制の品がいくつも見つかり、彼の自宅で取引を行っていた商人たちも捕まった。彼や彼の家族と直接取引したものはいなかったが、代理人と称する男が彼の部下であったため、追放となった。

 王の立像は、時々窓の奥に立てられた。その力強いシルエットは止まっているにも関わらず、見るものを睨みつけているかのような迫力があった。

「王妃様、いつも麗しゅうございます。最近は王様が時々立ち上がって外の様子を見られるとか。悪霊が取り付いていると城のものは怖がっています。われわれの作っている薬草をお持ちしました。この香りで落ち着くことでしょう。」
 商人は王妃に乾燥した草の束を渡した。
「私もそなた達の作る薬草は、痛みを押さえ、心やすらかで幸せな気持ちになれると聞いて応援しています。今は、伝染するかもしれないと、第二王子が一部のものしか部屋に入れてくれません。」
「では、コペン様にお渡しください。」
 商人は帰っていった。王妃は言われたとおりコペンに草を渡した。

「大麻じゃな。」
 マイは一目見るなり言った。
「この国ではつくることすら禁止されておるはずじゃが?」
「私もみるのは初めてです。儀式用に神官たちが認めたものだけが栽培しております。王は全面的に禁止をしようとしていましたが、病に倒れてしまいました。現在は王妃が財政難を理由に名誉会長として栽培を奨励しています。」
 マイは残っていた職人に何かを告げた。王子と職人は密かに城を抜け出すと山岳地帯へと向かった。

 数日後、かれらはいくつかの草の束を抱えて帰ってきた。
「これは、ケフナじゃ。素人には見分けがつかんが、安全なものだ。これとすり替えておこう。それから、像はしばらく出さなくよい。」

 その二日後、突然数名の神官が王の部屋にやってきた。
「ここに、違法な植物が持ち込まれたとの密告があった。調べさせてもらうぞ。」

 神官たちは、王のベッド脇においてある枯れた草の束を見つけた。
「これは、大麻ではないか。なぜ、ここにある。儀式用にしか許されていないはず。そうか、立ち上がれるまでに回復していた王が、ここ二日間、姿が見えず心配しておったのだ。」
 神官長は草の束を高々と掲げると、廊下にまで聞こえる大声でしらじらしく叫んだ。
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