貧富

文字数 1,047文字

 二人は第3の市民グループによる縫製工場へ向かった。
「義母は、私に基本的な読み書きと計算を教えてくれた。さらに、財産の管理のために彼女の共同経営者の一人を後見人としてつけてくれた。僕は将来、移民制度ができたら政治家になるつもりだ。そのために、この国の現状を見て回っている。」
 シンは田舎道を歩きながら雲一つ無い青い空を眺めて語った。

 二人は、濁った川のそばに出た。川沿いには木の板をはりつけただけのバラックやテントが所狭しと立ち並んでいた。魚の腐ったような異様な臭い。粗末な服で走り回る子供たち。かれらのお腹は膨れて突き出している。
「ここは、スラムだ。この国の貧しい市民たちが暮らしている。子供たちは栄養失調だ。病気も多いから遠くから見るだけにしよう。」
 彼らが奴隷として暮らしていた華やかな街とは大違いだった。
「大人たちは、近くの工場に出かけて働いている。特別に中を見せてもらえるように手続きをしておいた。」
 やがて、二人の前に大きな長屋のような建物が現れた。
「なんだ。ここは奴隷の来るところじゃないぞ。」
 守衛らしき男が二人を見つけて叫ぶ。
「私は、シン。見学の許可は出ているはずだが。」
 シンは、彼に許可証と国民証とを提示した。男は書類とシンの顔を何度も見比べていたが、
「失礼しました。中で工場長がお待ちです。」
 そういうと
「おい、案内してやれ。」
 もう一人の男に命令した。

「シン殿、お待ちしておりました。工場長のマトド・アスラムです。うちの製品を輸出したいとか。ありがたいですな。」
 工場長は腰が低かった。よほど、今回の商談に期待をしているのだろう。
「外国へ売り込むには、とにかく安くなくてはな。」
 シンは堂々と振舞った。
「はい、うちの布は見た目こそ無地で味気ないですが、その分とびきり安くできています。」
 工場長は自慢げに話す。
 ショウゴも布を見る。白といっていたが、薄茶だ。しかも、厚さが不揃いだ。これではずた袋にしかならない。布を織っているところでは会話もなく、上長が鞭を片手に見回っている。これでは奴隷扱いだ。

「われわれは、奴隷によって奪われた職場を取り戻したのです。奴隷によって市民の職が減ってしまった。奴隷たちは屋敷で暮らし、食べ物に不自由してません。それに比べ、職を失った市民たちは食べる事もままならない。そこで、われわれは奴隷をなくし、すべての職を市民の手に戻そうとしているのです。」
 工場長はまことしやかに説明した。
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