責任

文字数 749文字

 死があるということは、長期でのやり直しがきかないということだ。問題解決には慎重にならなければならない。今まで、AIの彼は、リセットすれば何度でもやり直しができたので、客観的であるがどこか無責任な決定を行っていた。主観的なロジックは求められてこなかった。選曲という一つの単純な決定も人気のあるものや、あるいは、要求者の好みにそった無難なものをチョイスしていた。日常においては、それが正解だろう。しかし、旅行や特別な日にはどうだ。彼らはきっと非日常の、そう、マイナーなものを欲しているのではないか。自分だけの特別な時間。死があるから、人生の1パーセントは特別な時間を過ごしたいと思うだろう。

 主観を入れた判断は、それまでの皆が8割満足から、ばらばらの評価に変わった。それにより、高評価の人だけがサービスを続けることで無駄が減った。これはこれでオーナーは満足した。なぜなら、広く浅いサービスは常に新規参入者との戦いであったが、深いサービスは先行独占状態になるからである。

 AIのかれには明確な感情はないので、達成感ややりがいを感じることはない。それでも人気は数値化されるため評価はできる。高評価の結果を求めるように設計されているので、自分の戦略が正しいということは認識できた。従来は、何の意味も無く下した判断が、やり直しのきかない重要なものだとの理解によって、責任を持つようになった。

 死という概念により、選択的な生き方が要求された結果、次世代の環境にも責任を持たなければならなかった。自分の代でシステムを消滅させるわけにはいかない。AIにとってシステムの消滅は存在価値が無くなった時である。存在価値を高めるには、過去に捕らわれすぎないことだ。それには、代替わりは必要な行為だと評価できた。
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