左ジンゴロ

文字数 741文字

 ジンゴロの乗った船は、蒸気と帆で動く船だった。季節風に乗って風で動いていたが、風の無いときや大荒れの時などは蒸気によって進んだ。荷が少ない行きには燃料である石炭を多くつめるので蒸気の場合が多い。帰りは、荷が増えるので風を使うことが増える。

 三ヶ月の船旅で、ジンゴロは調理に必要な言葉はほぼ覚えた。しかし、ほとんどが皮むきと後片付けで本格的な料理はまだ教えてもらっていなかった。
「明日は、本国の港につく。今日はパーティーだ。」
 普段は乾燥した芋や干肉が多い食事だったが、塩漬けにした魚や肉をありったけつかって調理した。野菜はパプリカなど保存のきくものを除き不足していたが、その分果物などを使った。
 料理のできないジンゴロには厨房ではやることがなかった。そこで彼は、ナイフ一本を持って食料庫にいくとフルーツの皮むきを始めた。

 料理が甲板の樽の上に並べられる。その中に、見た事も無い形をしたフルーツがあった。
「おい、これは何だ。」
 船長が料理長を呼んだ。そこには、花やネズミや鳥などの動物の形をした野菜やフルーツが並べられていた。どれもいまにでも動き出しそうに生き生きとしていた。
「カービングですな。これを作ったのは誰だ。」
 ヒロとジンゴロが連れてこられた。

 ヒロが口を開いた。
「これは、拙者の国に伝わるもので剥物という技法です。私がチンケに教えました。」
「まるで、生きているようだ。たべるのが惜しい。」
 料理長は本国につくと、ジンゴロをカービングの職人に預けた。カービングは一流の料理人が演出に用いる。そのため料理の基本を教わりながら、カービングの修行をした。左利き用のナイフがない時代、料理長は剣の職人に特注でジンゴロのためのナイフと包丁を作らせた。
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