処刑

文字数 914文字

 処刑当日の朝。コップ一杯の水が与えられる。昨夜からすでに食事はない。死んだときに糞尿を撒き散らさないようにだろう。手足を縛られ、兵士に連れられて街の中央の大きな広場まで歩く。通りに市民が出ている。石を投げつける者、そっと手を合わせる者。みな反応はまちまちだ。
 ショウゴは知っていた。この中に一体何人が真実を知っているというのだろうか。皆無だろう。当の自分でさえ本当のところは解っていないのだ。
 拘束されたまま、弱った体で歩かされるのはつらい。何度もつまづき、よろける。その度に兵士が引き立てる。長い間、暗い独房にいたせいか、夕日がまぶしくて人の顔もよく見えない。

「悪党!」
 罵声が聞こえる。彼らに罪はない。どうしてショウゴが悪党なのか答えられるものはいない。ただ、死刑囚だから悪党にちがいないという程度なのだ。子供たちは面白がって、蹴ってくる。止める人はほとんどいない。この街では奴隷は犬猫以下なのだ。

 広場につくと日は落ちていた。裸足の足からは出血していたが、痛みを感じる余裕も無い。目隠しの袋を被り、広間に立てられた杭に縛り付けられる。目隠しをするのは囚人のためではない。銃殺する兵士のために顔を隠すのだ。たとえ奴隷でも人間の格好をしているものを撃ち殺すのは気がひける。そのために、じゃがいもの袋などで顔を隠す。狙うのは人ではない。じゃがいもなのだ。

「構え!」
 兵士の声が聞こえる。太古が鳴る。
「キャー!」
 広場のあちこちで悲鳴が聞こえた。

「猿だ!猿の群れだ!」
 仲間が、猿の群れを広場に放ったのだ。この国では、特定の猿が神の使いとあがめられている。見物に集まった人々は抵抗することもできず、ひたすら逃げ惑った。兵士達は撃つこともできず、捕まえる事もできない。処刑は中断された。猿に流れ弾でもあったら、それこそ死刑ものである。

 300人ほどは集まっていたのだろうか。そのなかに数十頭の猿が乱入した。兵士達は、市民を場外に誘導するだけで手一杯だった。
 ショウゴの頭の袋が外された。杭とつないであったロープも切られた。仲間に背負われて広場をでると、仲間たちともども近くの民家に入っていった。
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