4 神のみぞ知る

文字数 7,340文字

 まったくの偶然から、ルータはその小隊を発見した。そして結果的には、それほど早い段階で彼らの存在に気付くことができたのは、わたしたちにとって幸運なことだったと言える。なぜなら、わたしたちは多少なりと、時間に余裕をもって家を()てる準備に取り掛かることができたから。
 結論から言ってしまえば、その謎めいた小隊の存在こそ、わたしたちが森を去ることになった直接の原因だった。
 彼らもまた、ホルンフェルス王国軍の部隊だった。
 ルータは軍用車の列を見かけたあと、このまま例の西の果ての採掘現場を見に行ってみたものだろうかと思案しながら、しばらくあてもなく林道に沿って空を漂っていた。
 彼にとってその道を目にするのは、ずいぶん久方ぶりのことだった。
 どんなに険しい山や森や荒地であっても、よくよく探せば、まさかこんなところに人が歩いた跡があるものなのかと驚かされるような道が、一つや二つは必ずや見つかるものだ。どうしてもその地を通過しなければならない理由と覚悟を胸に秘め、危険生物や天然の難所を(かわ)しながら手探りで進んだ、今は亡き数多の冒険者たちが残した足跡。
 しかし今となっては、この森に生身で侵入しようなどという人間は――密猟者や軍隊を除いて――ほぼまったくいなくなってしまった。
 大陸間を横断する鉄道が敷かれたのは、もう七年も前のことだ。
 森の北端は、大陸の北西に位置する広大な湾にぶつかる手前で、まるで目に見えない防波堤に守られるかのようになだらかな線状を描いて、ふっつりと断ち切れている。その先の沿岸と森とのあいだの隙間を埋めるように、西の王国から東の公国へかけて地続きの平野部が横たわっている。鉄道は、その上を通っていた。
 西から東へ、あるいは東から西へ行きたければ、もう誰も森を踏破したり、途方もない迂回をしたりする必要はない。心地よい車輪の運びに揺られて、郊外の牧歌的な景色や森の稜線を眺めているうちに、擦り傷一つ負うことなく、誰もが長距離を移動することができるようになった。
 体じゅうに傷をこさえて歩いたであろう(いにしえ)の時代の人間たちと、彼らをおそらくは密かに品定めしていたであろう竜の先祖たちに想いを馳せながら、ルータは悠々と林道を辿った。
 そうして、うっかりすれば見過ごしてしまっていたかもしれない、あるものに遭遇した。
 それはまた、軍用車だった。やはり林道に沿って停めてある。
 車は三台あった。
 先ほど見かけた車種よりは、いくぶん車体が小さい。いずれも五人から六人ほどが乗り込めそうな、小型の四輪駆動車だ。それぞれの車の後部の収納設備や屋根の上に増設された荷台には、けっこうな量の荷物が積まれているのが視認できる。
 ルータがその車列を見過ごしかねなかったのは、それらの車体がすべて、迷彩模様に塗装されていたからだった。森の奥地の荒廃した林道の最中(さなか)にあって、その塗装の効果はまさに抜群だった。
 このあたりは、今しがた(あと)にしてきた竜の大量虐殺の現場から、しばらく南西に進んだところだった。ルータは息を潜め、気配を消し、慎重に周辺の状況を探った。
 近くに、カセドラはいない。
 車には、誰も乗っていない。
 けれど、その場の大気中に残留する源素(イーノ)の流れを読み解くに、乗員たちが車を離れてからそれほど時間が経っていないということは、おぼろげながら感じ取ることができた。車窓越しに見てみると、革が張られた各座席の表面も、まだうっすらと人間の尻の形にへこんでいる。
 さらにルータは、車に積まれている物資を観察した。
 人が両手で抱えるほどの大きさの木箱が複数個、どの車輛(しゃりょう)にも積んである。ほぼすべてぴたりと蓋が閉じられているけれど、一つ二つ、直近になにか中身を取り出す機会でもあったのだろうか、蓋が三分の一ほど開いたままになっているものもあった。
 その内に収めてあるのは、どうやら、弾薬のたぐいであるようだった。それに加えて、毒々しい真っ赤な保護材で表面を固められた小さな円筒の束も、いくつかかいま見える。爆薬であることは明らかだ。
 背筋にひやりとするものを感じながら、ルータはさらに積荷を検分した。
 三台のうちの最後尾に停められた車のなかには、木箱と一緒に、畳まれた防水布の束や、なにかしらの骨格材らしき無数の金属棒と金具、それに銅製の鍋や食器が詰め込まれた(とう)の籠が積んである。車体の屋根の上の大きな荷台には、おそらく食料や水が備蓄されているにちがいない。
 まさか野営でもしようっていうのか、この竜の森の奥地で……。ルータは深く首をかしげた。……でも、そうか。天秤竜たちさえいなくなってしまえば、そんな呑気なことだって、できるようになってしまうんだな。
 車列のそばを離れ、警戒を(おこた)らないまま空へ舞い戻ると、ルータは鋭く意識を集中させた。
 まるで一枚ずつ薄いヴェールが剥がれていくように、五感が受けとめる情報がより鮮明に、より精度を増して、より広範囲から伝わってくる。
 やがて彼は、そこからそれほど離れてはいない森の真っ只中に、十人前後の人間の足音と息遣(いきづか)いを感知した。おおよそ、さっきの特殊車輛に収まる頭数(あたまかず)だ。
 再び地表付近へと降下したルータは、樹影から樹影へと次々に飛び移るように、低空飛行で森のなかを進んだ。


 捜索対象はすぐに見つかった。
 相手からじゅうぶんに距離を置いて、ルータはきっちり指折り数えた。
 彼らは、ぜんぶで13人いた。全員、男性だ。
 先頭に一人。そのすぐ後ろに二人。残りはさらにその後ろにゆるやかな円陣を組んで続いている。全員がおなじ迷彩模様の野戦服に身を包み、それぞれの手に最新式の突撃銃(ライフル)を携えている。迷彩の(がら)は、やはりあの特殊車両に施されていたものと同一だ。
 互いに背を預けあう態勢を保持しつつ、男たちはじりじりととした足取りで獣道を掻き分けて進む。どうやら、なにかを追うか探るかしている様子。
 しかし同時に、見ようによっては、彼らはなにかに追われているようにも見えた。それはきっと、急速に掃討が進んだとはいえ、(なが)いあいだこの地を根城(ねじろ)にしてきた竜たちが

その姿を消してしまったのかという疑念を、払拭(ふっしょく)できずにいたからにちがいない。
 彼らがその危惧を覚えるのは無理もないことだったけれど、実のところその時点では、もうすでに竜たちは本能の導きに従って東への避難を開始したあとだった。
 だがどうしてもその確信を持てずにいる兵士たちは、ひっきりなしに首と銃口をきょろきょろと(めぐ)らせて、猛り狂う天秤(がた)(つの)が今にもどこかから飛び出してくるんじゃないかと、真剣に恐れているようだった。
「おい、そこのおまえ」
 先頭を単独で歩いていた男が、出し抜けに一喝した。
 ルータの心臓は、誰かにわしづかみにされたように、ぎゅっと縮み上がった。
「いったいどういうつもりだ」
 男は立ち止まり、振り返ってさらに続けた。
 振り返った男の目が向けられたのは、ルータが潜伏する樹上の方ではなかった。
 とっさにその場から離脱する体勢を取っていたルータは、音もなく胸を撫で下ろした。
 ……そうさ、気付かれるわけがないんだ。こっちとあっちの距離は、優に50エルテム以上はある。おまけにそのあいだの空間は、みっしりと茂った藪や枝葉で埋め尽くされてるんだ。
「あの……自分、でしょうか?」
 隊列の後方にいた一人の若い兵士が、おずおずとみずからの顔を指差した。
 先頭の男は背後で足を止めている兵士たちを押しのけるように通り抜けて、当惑する若者の前で仁王立ちになった。
 そしておもむろに片手を差し伸ばすと、若者の構えていた銃身をがっちりと握りしめ、その銃口を自分の胸の中心に押しつけた。
「レーヴェンイェルム少佐、いったいなにを……!?
 若い兵士は頬を引きつらせた。周囲の兵士たちも一斉にどよめく。
「危険です、やめてください!」さらに若者は叫ぶ。
「危険なものか」レーヴェンイェルムと呼ばれた男は平然と返した。「こんな銃で、貴様はいったいなにを撃つつもりなのだ」
 恐るおそる、若い兵士は自分が銃口を突きつけている――というか突きつけさせられている――男の顔色を(うかが)った。そしてその冷ややかな視線が注がれている先にあるなにものかに目を留め、みるみるうちに青い頬を赤く染めた。
「……失礼しました。以後、気を付けます」
 さっきまでレーヴェンイェルムのすぐ後ろを歩いていた二人のうちの一人――この人物もまた年若い青年だった――が、軽やかな歩調で進み出て、肩を落としつつ銃の安全装置を解除している兵士の肩をぽんと叩いた。
 そして励ますようにほほえみかえた。
「めずらしいね。きみがそんなうっかりをしでかすなんて」
 柔和で、歌うような言葉の(つむ)ぎ方だった。それに、この暗鬱な環境にまるでそぐわない、(きら)めくような声質でもあった。どこかの劇場の舞台上か、あるいは詩歌の朗読会の席なんかに相応しいような声だ。
 樹影の奥から、ルータはよりいっそう目を凝らした。
 美声の持ち主は、おそらく二十代前半から半ばあたりの歳と見られた。身長は小憎らしいくらいに高く、体つきは踊り子のように細くしなやかで、ともすれば女性と見まちがいかねないほど優美で端然とした顔立ちをしている。ヘルメットからこぼれ出て頬を撫でている髪は、思わず笑ってしまいそうなほど完全無欠の白金色(プラチナ)。穏やかな光を(たた)える二つの瞳は、まるで夏の湖のように鮮やかな緑色。なにをどうしたって育ちの良さを隠しきれない人種がたまにいるものだけど、彼はそのなかでも王様と呼ぶべき存在だった。野暮ったい銃や戦闘服や兵隊たちに囲まれたところで、彼のその輝きが損なわれることは決してない。
「きみの部隊の者だったか」レーヴェンイェルムが金髪の青年に向かって一瞥を投げた。「こんな調子で、普段の訓練の方は大丈夫なのかね。テンシュテット・レノックス中佐」
 落ち込む部下の肩に手を置いたまま、レノックスと呼ばれた青年は苦笑を浮かべた。
「ご心配なく。我が隊の鍛錬に抜かりはないよ。この彼だって、いつもは失敗なんて一つも犯さない最優秀の兵士だ。しくじったところなんて、僕でさえ今日初めて見たくらいだ」
 レーヴェンイェルムはなにも言葉を返さない。ただ両方のまぶたをじろりと細めて、今しがたまで自分の心臓に押しつけていた銃口を、(もく)して見おろすばかり。
 人間というより、むしろ精巧に造られた機械かなにかを点検するような気持ちで、ルータはその男の姿を眺めた。
 ただ銃を携えて立っているだけだというのに、その全身からは不用意に近づくと火傷を――あるいは凍傷を――負わされてしまいそうに思えるほど、研ぎ澄まされた気迫と戦意が放たれている。
 佇まいには洗練されたところが見受けられはするが、それはレノックスと呼ばれた青年の持つそれとは性質がまったく異なる、いわば苛烈(かれつ)研鑽(けんさん)の副産物として、無自覚的に身に着けられた特性であるように見受けられる。
 肩幅は広く、背中も大きく、腕も脚も軍馬のように頑強そうだ。背丈は隣に立つレノックスに負けず劣らず高い。顔の造形は彫りが深く、鼻も目も彫像のようにくっきりとしている。頬はややこけていて、唇は薄い。顎の先に()みがかった銀色の(ひげ)がたくわえられている。一見しただけでは、正確な年齢がうまく読めない。しかし髭とおなじ色の、耳を覆い隠すほど長く伸ばされた髪の(つや)と、頬や首の肌の張り具合から推察するに、たぶんこの男もまた20代のどこかにいるものと思われる。
 ふわりと蝶が飛び立つように、レノックスの手が部下の肩から離れた。そしてその手でみずからのヘルメットをつかみ、その下に潰されていた麗しの小麦畑に風を送り込むように、ぱたぱたと何度か上下に動かした。
 それから全員を見渡して、朗らかに告げた。
「みんな、(おび)えるのも無理はないさ。なにしろつい最近まで、一歩踏み込んだ途端にでっかい竜が飛んできていたような場所にいるんだからね」
 それを聞いて、小隊を構成する半分ほどの兵士たちはふっと表情を(ゆる)め、もう半分はやや眉をひそめるような反応を見せた。
「怯えるのは誰にでもできる。それこそ、赤ん坊にでも」相変わらず鉄仮面のような表情を保ったまま、レーヴェンイェルムが言い放った。「兵士が怯えていいのは、みずからに課せられた任務が(まっと)うできないと悟った時だけだ。撃てない銃を抱えて任務に赴く兵士に、怯える資格などない」
 それを聞いて、隊員の半分ほどが顔色を暗くしてうつむき、もう半分は意気揚々とうなずいた。
「言い過ぎだぞ、ヤッシャ」
 嘆息混じりに言いながら、先程までレノックスと並んでレーヴェンイェルムの後ろについていたもう一人の男が、大きく一歩を踏み出した。
 そしてそのたった一歩で、相対しあう二人の同僚のあいだに割って入ってしまった。
 というのも、彼は常軌を逸した長身の持ち主だったからだ。
 彼の横に立つと、平均よりずっと背の高いレノックスやレーヴェンイェルムでさえ、ほとんど普通の人のように見えてしまう。少なく見積もっても、軽く2エルテムは越えている。この男の隣に立つのは御免こうむりたいなと、ルータは苦々しく思う。僕じゃきっと普通の人どころか、子供に見えてしまうだろう。
 巨漢はその(かく)ばった大きな顔面によく馴染む、(ふち)が四角形のごつい眼鏡を掛けている。彼も同僚たちとおなじように武装して銃を携行しているけれど、どことなく他の面々とは雰囲気が違っている。背中で束ねられた長すぎる黒髪はどう見たって戦闘には不向きだし、その黄金色の双眸(そうぼう)には深く静かな知性の光が隠しようもなく輝いている。それに彼だけ大きな箱型の鞄を肩にかけているし、白い腕章を片方の腕に着けている。(いくさ)の心得がないわけではなさそうだが、おそらく平時にあっては、戦場を主な住処(すみか)としている人種ではないことが推測される。年の頃は、やはり先の二人とそう変わらないように見える。
 ぎろりと大男を睨みつけて、レーヴェンイェルムが不服そうに口を開いた。
「なんだ、ドノヴァン。私はなにか間違ったことを言ったか?」
「間違っちゃおらんかもしれんがな」ドノヴァンと呼ばれた男は軽く肩をすくめた。「しかし、物には言い方ってもんがある。それに原理的に言って、絶対に失敗を犯さない人間なんかこの世のどこにもいやしない。時には誰にだって落ち度がある。例えばヤッシャ、おまえにも」
「なんだと?」眉間に深い谷を作って、レーヴェンイェルムが声を荒げた。「どういうことだ。私になんの落ち度がある」
 そこでドノヴァンは片手を振り上げ、それを親しみを込めてレノックスの肩に置いた。
「このかたをお呼びするなら、今は、テンシュテット・レノックス隊長殿、だろ」
「ふん……」肩透かしを食らったように、レーヴェンイェルムはかぶりを振った。「……失礼した。レノックス隊長」
 わざとらしく彼が言い直すと、その拍子に金髪の青年は吹き出してしまった。
「もう、よしてくれよ、ヤッシャもドノヴァンも」隊長は可笑(おか)しそうに言う。「なにも死地に(おもむ)こうっていうんじゃないんだ。あんまり張り詰めてたんじゃ、(かえ)って手許が狂ってしまうよ。ただでさえ臨時編成された急造の部隊なんだ。先は長いことだし、みんなで互いを信じあって、いつもどおりの調子で行こうじゃないか」
 ドノヴァンがにやりと笑い、その丸太のような腕を隊長の首根っこに遠慮なく回した。
「だな、テン」
「テンシュテット隊長、だろ」レーヴェンイェルムがすかさず指摘した。
 肩を組んだ二人は、顔を見あわせて苦笑した。
 かすかに苦渋の表情を浮かべたレーヴェンイェルムは、そっぽを向くようにして隊列の先頭へと戻った。
「……さて」一つ息を吐いた隊長の青年が、真剣な目を隣の大男に向ける。「このあたりから、いよいよ前人未踏の領域が始まるんだな」
 大男は隊長の肩から腕を降ろし、自分の尻のポケットに突っ込んでいた地図らしきものを広げた。隊長をはじめ、帯同する兵士たちがみんな首を伸ばして、その紙面に視線を注ぐ。
「そのとおりだ、テン」ドノヴァンは落ち着いた声で言う。「ここから先は、正真正銘、いまだかつて人間が踏み入ったことのない未知の世界だ。世界が始まって以来ずっと天秤竜によって護られてきた、いわば世界最後の秘境。その、入口だ」
 兵士たちは全員、静かに息を呑んだ。が、レーヴェンイェルムだけは顔色一つ変えない。この男は、たとえ空から巨大隕石が降ってきたとしても、眉一つ動かすまい。
 小隊を率いる青年は、ふいに唇をきつく結び、その瞳を言いようのない憐れみの色に染めた。
「……まぁ、竜たちの死を無駄にしないためにも、俺たちはなにかしら意義のある収穫を持ち帰ることができるよう、努めていこうじゃないか。な、隊長」
 呼びかけられた青年は、まるで小魚の食いついた釣り糸のように(しず)やかな所作で、その(うれ)いを帯びた(おもて)を上げた。そして小さく一度うなずき、胸を張って部下たち一人一人を見渡した。兵士たちもまた、意気込んで姿勢を正した。
 列の先頭に戻っていたレーヴェンイェルムを二歩ほど追い越して、隊長の名に相応しい位置にしっかりと立つと、青年はまっすぐに前を――なにが潜んでいるのか神のみぞ知る薄闇の奥を――見据えて、告げた。
「では改めて、本日より第三十四次妖精郷(ようせいきょう)探索隊の作戦行動を開始する」
 兵士たちは――レーヴェンイェルムとドノヴァンも含めて――全員一斉に敬礼し、熱い息を吐いてそれに応じた。


「……今、なんと言った」
 ルータが話し終えたその時、ベッドのなかでクレー老師が声を震わせた。
 わたしたちは弾かれたように椅子を引いて、ベッドの方を振り向いた。
 (ただ)されたことにルータが応じると、老師は深いため息と共に天井を見上げた。
「いったい、何十年ぶりだろうか。その名を耳にするのは」老師は無理やり喉を絞るようにして言った。「彼らは、まだ諦めていなかったというのか。妖精郷を……〈テルル〉を」
 わたしたちは文字どおり老師のもとへ飛んでいった。
「……みんな。そろそろ家の片付けを始めておこう」
 重々しくまぶたを閉じて、老師は言った。
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登場人物紹介

◆リディア


≫『独唱編』シリーズの主人公/語り部。人に見えて人に非ざる、ある謎深き一族の末裔。数少ない同族の生き残りであるルータたちと共に、広大な森の奥地に隠遁している。絵を描くことがなにより好き。

◆ルータ


≫リディアとおなじく、現生人類とは異なる神話的な一族の末裔。穏やかで飾らない人柄だが、責任感は誰より強い。大変な読書家。

◆イサク


≫ルータの実妹。リディアとは物心つく前からの親友どうし。かなりの人間嫌いで普段の言動も素っ気ないが、動物や自然を愛する心はとても深い。共に暮らす祖父の身を常に案じている。

◆テンシュテット・レノックス


≫ホルンフェルス王国の名家レノックス家の長子。〈想河騎士団〉副団長の立場にあるが、国王の命を受けてある調査隊の長を兼任する。子供のように穢れなき心の持ち主で、古代神話の謎を解明するのが積年の夢。

◆ヤッシャ・レーヴェンイェルム


≫ホルンフェルス王国軍人。平時は一個精鋭歩兵部隊を指揮するが、現在はある調査隊の副長を兼務する。家柄も発顕因子も持たない身でありながら、その傑出した実力と戦歴の故に国王の寵愛さえ受ける。

◆〈アルマンド〉


≫三年ほど前にホルンフェルス王国が建造に成功した、史上初の完成体カセドラ。同国軍の主力量産型巨兵として、また現世界最強の巨兵として、広くその名を知られている。

◆〈ラルゲット〉


≫コランダム公国が隣国ホルンフェルス王国の〈アルマンド〉に対抗すべく製造した、主力量産型カセドラ。運用が開始されてからまだ日が浅い。

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