第82話 白秋 - 草露白 (くさのつゆしろし)

文字数 409文字

 竹林をゆくと、笹の声が聞こえてくる。そういえば風の音の話をしたことがあった。まだ夏の時分に、風鈴のもとで。
 空は白みはじめ、緑の色が明るくなってくる。葉に置かれた露が転がり落ちる。歩きながら、銀兵衛は考えこむ。
 風に姿かたちがあるとしたら、どのようなものだろうか。
 背に追うた巻物が、かたかた、と鳴る。大家の金兵衛より和尚さんへの届け物である。余程、大切なものと見えて一巻ずつを自分と長兵衛に託された。半刻(はんとき)ほどずらして行くようにとも。
 寺へ着くと、労いの言葉と共に控えの間に案内される。

 暫くのち、本堂へと招かれた。長兵衛も着いたものとみえる。
 お陰様で二本の巻物が揃いました、と和尚さんが頭を下げられる。控えていた小僧が、ぱあっと広げると。
 銀兵衛は目を見開く。
 何も。書かれておらぬではないか。

 何と読めましたかな。

 秋の風の姿とお見受けいたしました。
 長兵衛の声が、銀兵衛の中でぐわんぐわんと響きわたる。

<了>
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