第50話 袋角(ふくろづの)- 蛙始鳴 (かわずはじめてなく)

文字数 434文字

 一行は地蔵さんの辻を越えて峠へ向かい、山の深いところまで分け入った。金兵衛は夏の早い時期に沢の見廻りを始めるのだが、銅十郎はついに、お供を許された。長らくの弟子入り志願が、第一歩を踏み出したかたちである。
 十二のとしを迎えて背も伸びたとはいえ、大人の足に合わせるは易しいことではない。
 向こう岸の葉陰が動いた。先頭をゆく銀兵衛と、その後ろの金兵衛は止まり、大きな鹿が見えなくなるまでじっとしている。その間に追いついた銅十郎、息を整え、ややあって尋ねる。
 金兵衛さん。なぜに鹿の角は秋に落ちて、春にまた生えますか。丸かったのが夏になれば固くとがり、そして抜け落ちる。なぜにずっと立派なままではいられないのですか。
 なに、花が日に向かってひらき、土に向かって種を差し出す。同じ道理だ。
 そんなら、(かわず)が鳴きだすのも、そのうち止んでしまうのも。
 そうな。なんの難しいことでもない。

 腹が鳴るのもそういうこと、しんがりにあった長兵衛は独りごちる。
 
 
  

 <了・連作短編続く>
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